スピリティド
act.2
「畏れてるっていうなら、間引き自体をなくせっつーの……」
レオはぎゅっと拳を握りしめた。
「あ、おっさんの力で、間引きを無くせないか!?」
「それは難しいと思う」
レオの提案は、ソアラに即座に却下された。
「オルハン先生から聞いたけど、昔から皇帝一族とカデシュ様は交友的な関係らしい。皇帝は強大な力を持つカデシュ様を敵に回したくないし、カデシュ様も無駄な争いは避けるために皇帝のやることには口を出さないんだよ、きっと」
「う……ダメか……」
レオはそれ以上何も言わず、ただうつむいた。やがてソアラが、アドリーンとレオを振り向いた。
「とりあえず、日が暮れないうちに、人のいる場所へ行かないと。どこだかわからないここに留まるのは何の解決にもならないよ」
ソアラの意見は最もだった。村か町にでもたどり着ければ、少なからず情報が手に入る。それからじっくり、これからどうするかを考えればいい。
「街道に出ようぜ? それに沿って行けば、どこかに着くだろ」
レオが指差したその先。草原の向こうに、街道が続いているのが見える。
よく晴れた空を見上げ、3人は草原を歩き出した。
********
ホムラが部屋に入ると、必死に何かを訴えるシロナと、それを椅子に腰掛けて聞いているユリアーネの姿が目についた。
「いいところに来た。貴様からも何とか言ってやれ」
ホムラに気づくと、シロナは振り返り、早速、声をかけてきた。
「どうした?」
答えながら、2人に近づく。
「ユリアーネがオルハンの処分を渋っている。あの小娘とガキ2人の指名手配の準備もしなくてはいけないのに……」
「子ども3人は後ほど手配をする。オルハンはとりあえず捨て置け」
「な……っ」
「今、オルハンを失うわけにはいかない」
それだけ言って、ホムラはユリアーネに向き直った。
「……南方司令部の牢獄から人間が逃げ出した」
それを聞き、彼女は目だけでホムラを見る。
「サウスエリアはお前の管理下にある地域だな、ユリアーネ?」
「……わたくしの管轄で面倒を起こさないでほしいですね」
ため息と共にユリアーネは顔を上げた。
「逃走先の目星は付いてるんですか?」
「ノディオの街に決まっている。あそこは南方司令部から近いうえに、人間だけが住む街だからな」
しばらくの間、ユリアーネはホムラの目をじっと見つめていたが、やがて、折れたように目を逸らした。
「……すぐに三将軍を率いて向かいます」
立ち上がり、扉へと向かう。その前までたどり着くと、ユリアーネはホムラとシロナを振り向いて、瞳を細めた。
「五聖人ユリアーネ・キアランの名にかけて、脱獄者とあの街に制裁を加えます」
そう言って、通路へと続く扉へと姿を消した。
(なんて目をする……)
思わず背筋が冷たくなった。瞳の中の暗く沈んだ穴──ユリアーネは、稀にそんな瞳をする。
「大丈夫なのか、あいつは」
ユリアーネが去った後、ホムラのそばに来て、シロナがそう訊いてきた。
「まあ、これでノディオの街は、地図から消えることになるかもしれんな」
「! いいのか、それでっ」
大声を出したシロナを、ホムラは振り返った。
「おかしな奴だな? 街がなくなれば人間が減る。喜ぶべきだろう?」
「それは、そうだが……あの街は、ユリアーネの故郷だったはずだ……」
シロナは片手で自分を抱くようにすると、目を逸らしてそう呟いた。
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