スピリティド
act.1
「でも……」
レオがぽつりと呟いた。
「よく無事で済んだよな、アド。処刑の最中に飛び込んだんだろ?」
「そうだね」
ソアラも言った。
「シロナさん、五聖人の中でも1番残忍な男で有名だよ。逃げ切れたことも、不思議でならない」
「うん……逃げてる時、助けてくれた男の人がいたの。ね、レオ」
「ああ、そうだったな。耳が尖ってたから、魔族か半魔なんだろうけどさ。逃がしてくれたよ」
「まさか……魔族や半魔が人間を助けるなんて……しかも、帝国から追われてる人間を助けるなんて、有り得ない……」
階級制度の上層で生まれ育ち、人間を下級生物として見なす彼ら。魔族優位のこの世界を造り上げた帝国に、彼らは献身的に働くに違いない。
「まあな。俺も不思議で仕方なかったけど、罠でもなくて、無事に逃げ切れたし……あの時だけは、まるで神様に思えたぜ」
魔族にもいろいろいるんだな、とレオは頷いた。
「それで、アドが助かった理由は?」
「えっと……タイミングよくカデシュ先生が来てくれたの。その日はちょうど、百年に一度、カデシュ先生が村を訪れる日で」
「そう。でも、まさかキミの先生が、あの大賢者カデシュだなんてね」
「そんなに驚き?」
「驚きだよ。カデシュ様がどういう人かキミ、知らないの?」
「俺、知らねー」
それを聞いて、ソアラは溜め息を吐いた。
「さすがに『大賢者』って言ったらわかるよね?」
「世界に存在するすべての魔法を知ってて、それを使えるんだよね。魔法使いのトップで、伝説的な人」
「それだったら、俺も知ってるぜ」
レオは自信満々に答えた。
「確か、世界に1人しかいないんだよな。しかも、それが人間だってんだから、すげーよ」
「その通り。世界の真理を研究して人の理を外れ、千年以上の時を生き続けてるスゴいお方だよ」
「あのおっさん、見かけによらず年いってんだな……じいさんだ」
「レオ……おじいさんはちょっとヒドいと思う……」
「そうかぁ?」
「そうだよっ」
確かに、実年齢は千歳を超えているだろうが、まだ見かけが二十代後半ぐらいのカデシュだ。おっさんでも少しヒドいだろう。
「でも、年はヤバいだろ」
「まぁ……確かに、ちょっと頭が固いかもだけど……」
「とにかくっ。人間なのに、魔族や半魔と同じように生き、彼ら以上に魔法の扱いに長けてる。皇帝も迂闊に手が出せないお方なんだ!」
話が逸れていくのを正そうと、ソアラは声を張った。
「人間が滅ぼされず、間引きで許されてるのは、魔族がカデシュ様を畏れてるから……つまり、全部カデシュ様のおかげなんだよ。僕達が今、こうして生きてることもね」
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