スピリティド
act.5
「あの、アドリーン……」
オルハンは呆然としているアドリーンに声をかけた。
この時、アドリーンの中では少しの怒りと悲しみと戸惑いが入り乱れていた。
オルハンだって、突然子どもを押し付けられ、困惑しているだろう。
だが、そういう判断をしたカデシュには、何か考えがあるのかもしれない。
「……オルハン様、これからよろしくお願いします」
感情を圧し殺してそう言うと、オルハンは微笑んだ。
「うん。こちらこそ……よろしく」
言って、指をパチンと鳴らす。すると──
「お呼びですか、オルハン先生」
声が聞こえ、振り返ると、少年が立っていた。
年は、アドリーンと同じか、少し上に見える。青いローブを羽織り、赤い布が巻きついた灰色の杖を手に持っている。魔法使いらしい格好をしていた。
「私の弟子、ソアラだよ。ソアラ、この子はアドリーン。しばらくここで預かることになったから、いろいろ教えてあげてくれるかな」
「はい、わかりました」
「じゃあ、私はいったん部屋に戻るよ」
ソアラが頷くのを確認し、オルハンは屋敷へと向かった。
「よろしくね。あの……」
「ソアラでいい。キミは?」
「アドリーンよ。でもみんなはアドって呼ぶの」
「そう……」
見た目は少し冷たいように感じるが、なかなか好感触で安心した。
「早速だけど、1番大事なこと。この屋敷の敷地内から外に出たらいけないから」
「なんで?」
「なんでって……危険だから」
「何が危険なの?」
「知らないなら、知らなくていい」
「そう。塀の外ってどうなってるのかな」
高い塀を見上げながら、そう呟いた。空間転移で屋敷の門前に来た時は、あまり周りの様子を見れなかった。
「言っとくけど、外に行こうなんてムダだからね。門番がいるし、塀は高いし、登ることは不可能だから」
「じゃあ、クラウサーで飛ぶ」
アドリーンは、クラウサーを一撫でして微笑みかけた。それを見たソアラの顔には、驚きの表情が浮かんでいる。
「その箒、飛べるのか? キミは……」
「クラウサー。私の相棒の空飛ぶ箒!」
クラウサーを両手で持ち、その手を前に出して、少し誇らしげに見せる。
「キミ……魔法使いなのか」
「うん。先生に弟子入りしたんだけど、いきなりオルハン様のとこへ預けられちゃって」
「じゃあ、魔法使えるんだ?」
「うーん……実は、クラウサーで飛ぶぐらいしか出来ないの」
えへへ、と笑ってアドリーンは答えた。
「……キミの先生、よく弟子入りを許可してくれたね」
「うん!」
[*前へ]
無料HPエムペ!