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魔王様ご一行


さん

隼人はシャミィを抱き直し、正面玄関のガラスドアを押し開けた。

左右に広がる廊下があり、その奥が二階まで吹き抜けのホールになっている。びっしりと並んだテーブルを、何人かのグループの学生が囲んでいる。学生ホール、というやつだ。

「さすが、白並木学園。豪華だな〜」

感嘆の声をあげて辺りを見回すと、左角に両開きの分厚いドアが見える。

隼人はホールを通り抜けた。ドアの向こうに身を滑り込ませる。

「あ、桜川隼人」

とたんに名前を呼ばれ、隼人はギョッとした。

「王を狙ってここに来たけど、代わりに桜川隼人を見つけるなんてラッキー」

そこにいたのは、以前、玄関で隼人に銃を撃ってきたオレンジ色の髪の少年と、幾度となく刀で襲ってきた藍色の髪を一つに束ねた青年だった。

「は、半魔……っ!」

とっさに彼らの通称名が口から出た。

「ふんっ。貴様ら、我が輩の魔法を受けて、もう体はいいのか?」

「まだ完璧じゃない……けど、寸前でガードしたからね。まともに受けてないだけ良かったよ。それに、回復してないのはお互い様みたいだし?」

お互い皮肉を込めて言い、シャミィと少年は睨み合った。

「……しかし、我々の正体がバレているとは」

青年は溜め息を吐いた。

「僕、たしかに半魔だけど耳尖ってないのになぁ。なんでわかったのさ?」

少年はそっと自分の耳に触れ、隼人に説明を求める。

「シャミィ達が教えてくれたんだよ」

「マジ? やだねー、しゃべりの猫は」

「猫じゃないわ! 猫って言うな!」

すかさずシャミィは訂正した。

「鮭缶とか好きなんでしょ。調査済みだよ」

「貴様、鮭缶がどんな素晴らしい物か知らぬくせに」

「これのこと?」

少年はひょいっと缶詰を取り出した。

「それは鮭缶……!」

シャミィの目が缶詰に釘付けになる。少年が缶詰を持つ手を動かす度に、シャミィの顔も動く。それを見て彼は笑った。

「何あんた、やっぱりそうなんだー。ほー、へー、ふーん。……いや、別にぃ? ただ、あんたの先行きが不安だなぁと」

「先行きってなんだ!」

「猫だね、ってこと」

「何か勘違いしてるだろう貴様。我が輩が好きなのは、ただ、そういう傾向が多少、そう多少あるというだけで、完全なそれではない!」

「完全な猫じゃなくても鮭缶好きってだけで怪しいよねー。しかもこれ、猫用の89円のやつだし」

あははは、と少年は笑って走り出す。

「こら、待たんかっ!」

隼人の腕をすり抜け、シャミィは少年を追いかけ始める。

残された隼人は、呆然と走り去る2人の背中を見つめた。

「どこ行くんだよ、おい。てか俺はどうしたらいいんだよ」

隼人の呟きに、同じく残された青年が溜め息混じりに答えた。

「とりあえず、追いかけますか」


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