魔王様ご一行
ご
「え〜っと……これは何の冗談で?」
次の日。リビングで昨日の赤ん坊を見て、隼人は矛盾という言葉の意味について考えた。
「大きくなったね〜吉右衛門」
「大きくなったね〜吉右衛門……じゃねぇよ!」
朱里が頭を撫でるのを前にして、隼人は床を踏み鳴らした。
昨日までハイハイをしていた赤ん坊は、自分の足で立っている。しかも──
「あそぼっ。ねーねー!」
「有り得ないだろ、この成長ぶり! お姉、何食わしたんだよっ!」
「あら、普通に粉ミルクよ」
「昨日の今日でしゃべれるようになるかっ。おかしいだろ!」
「いいじゃない。話し相手が増えて」
「にーにー」
今度はそう言いながら、赤ん坊は隼人に寄って来る。
嬉しそうに笑う赤ん坊は、幼かった頃の朱里とかぶる。
「か、可愛い……」
抱き上げ、赤ん坊に語りかける。
「そっか。お前、俺をにーにーって呼んでくれんのか」
「なーによ。お兄が1番ハマってるじゃない」
「良かったわね、吉右衛門」
「紺平だ!」
莉々子の『吉右衛門』に、サッとツッコミを入れる。
「吉右衛門なんて認めないからなっ。絶対に紺平!」
「あら、多数決で決める?」
「う……」
朱里は莉々子の味方だ。絶対、吉右衛門に投票するだろう。
結果は見え見えだ。紺平、1票。吉右衛門、2票。
「紺平! 何が何でも紺平!」
「吉右衛門よ、吉右衛門」
「紺平!」
「吉右衛門」
「どちらでもよろしいから、ちょっとお耳を貸してくださらないかしら?」
上品に話しかけられ、隼人は振り向いた。
薄紫のウェーブがかかった髪に、真珠を散りばめた少女。
見るからにゴージャスそうだが──足がない。
「あの、もしかして……昨日の奴の仲間?」
「こらっ。四天王クシャラミ様だぞ。言葉を慎め! 態度を改めろ!」
そう言ったのは、シャミィだった。家来のクセに主の肩に乗っているあたり説得力がない。
「久しぶりだな、シャミィ!」
「猫さーん!」
朱里が嬉しそうにシャミィを抱く。久々の再会で、隼人も嬉しく思った。
「や、やめんかっ」
「お黙りなさい、シャミィ」
暴れていたシャミィをその一言で静止させ、クシャラミは隼人達に向き直った。
「四天王クシャラミですわ。バルバルーがヘタレなので、私が代わりに参りましたの」
クシャラミは優雅に挨拶してみせた。
「半魔に狙われてることは、シャミィから聞きましたわ。桜川家、四天王がお守りします」
「え、ま、マジ? あ、いえ、マジですか?」
「もちろん……だから、条件がありますの」
「え……条件?」
「簡単なことですわ。もう1度、魔界へ行ってくださらないかしら」
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