魔王様ご一行
よん
「ども〜」
彼は笑顔で言った。
黒髪に黒い瞳。耳は尖っていて、ピアスが数個ついている。服も黒──とそこで、隼人は少年の異変に気づいた。
足が──ない。
消えている、とは違う。雲のような靄の上に、体があると言った感じだ。
「な……」
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……なむなむ……」
なんなんだお前、と言いかけたが、朱里がぶつぶつと唱えだした呪文に遮られた。
「なむあみだぶつ……悪霊たいさーん!」
どうやら、少年を幽霊か何かだと思ったらしい。隼人はというと、幽霊をまったく信じないわけで。莉々子も同じく、いつもの態度を崩さず、少年を見ていた。
「おい、朱里。こんなはっきり見える幽霊がいるか? そんなの効くわけ──」
「う……うが……おのれっ」
「……効いたな。てかマジで幽霊なのか……?」
「うがぁ……て、そんなん効くか、バーカ」
「いってぇ!」
わけもわからず、隼人は少年からげんこつをくらった。
そんな少年を、ずっと黙ってやりとりを見ていたクラドとメデが、白っとした目で見上げた。
「……バルバルー様、のりツッコミはお止めください」
「大して面白くなかったしね」
「う、うるせーな!」
「あのさ……誰、こいつ?」
耳が尖っていて、クラドやメデと親しげなあたり、魔界の住人だと思うが。
「この方は、四天王バルバルー様です」
「魔王を守る、最強の矛バルバルーだ」
クラドに紹介され、彼は威張って言った。
「四天王って、レインの部下っていう……」
魔王の側近の中で、1番権力がある4人。
レインを封印した連中──
とんでもない人物の登場に、隼人は緊張したが、莉々子と朱里はのほほんとした態度で口を開いた。
「なんか、さすがレインの部下って感じね」
「やることがバカっぽーい」
「つまらないし、ウケないわね」
「てかそれって幽霊か何かのコスプレ? 足がないのヤケにリアル〜」
「あ、あんまり言っては──」
クラドの制止の声に、隼人はバルバルーを見た。
うるんだ瞳。ハラハラと涙を流しながら、彼は言った。
「なんだよなんだよっ。半魔に狙われてるって聞いたから、黙って来たのにっ。そんな傷つくことばっかり言いやがって……!」
「お、おい?」
「こんな黄泉の国みたいなとこ誰が来るかー!」
そして、バルバルーの姿は掻き消えた。
「なーによ。人の家を地獄かなんかみたいにー」
「……ある意味地獄だよ」
やって来て早々、彼女達の嫌みの餌食になるとは。
不運、だろうか。
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