魔王様ご一行
いち
「……って、けっきょく何も起こらなかったんだけど」
シャミィが“明日”と言ってから3日が経ったが、何も起こらず、平和な時が過ぎていた。
「あいつは妙なとこでドジだからな。忘れてんじゃねーの?」
食パンに食いつきながら、レインは言った。
「あー、マジに受けてた俺がバカみたいじゃねえか」
あれから家に帰り、隼人は何が起きても大丈夫なように、危険警戒態勢をとっていた。
もちろん、他の3人にも話したが、レインも莉々子ものんびりしたものだった。朱里は猫さんが帰ってくる〜と逆に大喜びだ。
「お兄、猫さん来ないじゃん。帰ってきたらまた一緒に捜してよー」
「はいはい……」
シャミィ捜しはまだ続いている。どんな形でもいいから、帰ってきて欲しいと心の中で思った。
「あ、そうだ。お姉」
食器をキッチンへ片づけながら、ふと隼人は大事なことを思い出し、莉々子に声をかけた。
「俺、今日は半日授業だから早く帰るよ」
「あ、あたしもだよ」
朱里が莉々子からランドセルを受け取りながら言った。
「そう。じゃあ、お昼用意しなきゃね」
莉々子の言葉に、隼人は冷や汗が出た。莉々子の学校は、試験休みに入っている。
昼間から殺人的料理を食べなければいけないなんて──
「……おい、レイン」
隼人はこっそりレインを呼んだ。
「今すぐコンビニ行って適当に弁当買って来て」
「は? やだね。連日の猫捜しのせいで筋肉痛なんだ」
「殺人的料理、食べたいか?」
「うっ……わかった」
「よし」
レインが納得したところで、彼に千円札を握らせた。
お小遣いがなくなるのは悲しいが、昼間から殺人的料理を食べるよりはマシだ。
学生鞄を持ち、玄関に向かう。その後をレインが付いて来る。
「ちゃんと買えよ?」
「わかってる」
最後の確認をし、玄関を開けて──思わず止まった。
「……なんだ、これ」
足元に穴がある。玄関から先2mほどがゴッソリない。穴を覗き込んでみたが、真っ暗で底は見えない。
「おバカ。考えずに素直に掛かれ」
穴の向こう側に白猫が現れた──シャミィだ。深い青色の瞳で真っ直ぐに見つめてくる。
「……知ってて素直に掛かるのがおバカだよ」
玄関から外に出ることを諦め、庭から出ようと振り返ったが──
「あ、猫さん。帰って来たんだ〜」
隼人のすぐ後ろで、朱里の目がシャミィを捉えた。その後ろで、莉々子が見送りのために靴を履き、レインが千円札を握り締めながらシャミィを見た。
「猫さん? ああ、この前の猫帰って来たの?」
「てめぇ……よくもノコノコ現れたなっ!」
3人がいっせいに外に出ようとする。特に最後尾のレインが、隼人達を押し出した。
押すな、と言いたかったが、遅かった。
「うわっ」
「きゃっ」
「えっ」
「ん? え、落としあ……ぎゃああぁぁあ!?」
隼人達は、穴の中へとダイブした。
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