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魔王様ご一行




鮭缶を片手に、隼人は町を歩いていた。魔獣が寄り付くところなんて見当もつかない。だいたい鮭缶なんかでおびき寄せられるのだろうか。

「あ……桜の木……久しぶりだな」

隼人はいつの間にか、桜の木がある神社に来ていた。学校帰りはよくここで、桜の木に向かって語りかけていたものだ。最近は、そんな暇もなくなってしまったが。

「ここに来ない間に、いろいろあったよ。変な居候が増えたし、空も飛んだし……今は猫捜し」

だが、桜の木から反応はない。前は木の葉を揺らして相づちしてくれたのに。それに違和感を感じながらも、隼人は語りかけた。

「その猫、魔獣なんだよな。鮭缶に釣られて現れるのか疑問だよ」

「それが現れるのだ!」

「うわっ。猫……っ!」

突然現れたシャミィに、隼人は鮭缶を落としそうになった。

「懐かしいな……この木を見ると、あいつが封印された時を思い出す」

シャミィは桜の木を見上げた。

そういえば、以前、レインも自分が封印されていたようなことを言っていた。

「ま、まさか……レインはここに封印されてたのか……?」

「そうだ。我が輩の主、クシャラミ様を含む四天王が、あいつを封印したのだ」

シャミィの言葉で謎が解けた。なぜレインが、桜川家や隼人しか知らないことを知っていたのか──隼人がここで話したことを聞いていたのだ。

「あのさ、なんで封印されたんだ?」

「缶詰め」

「は?」

「缶詰め寄越せ。そうしたら教えてやる」

「仕方ないな……」

鮭缶を開け、シャミィに差し出す。

「最近何も食べてなくてな」

美味しそうに鮭缶を食べるシャミィを見ながら、隼人は訊いた。

「なぁ。レインは魔王じゃないのか?」

「違うな」

はっきりと、シャミィは言い切った。

「確かに、あいつは先代の魔王の血を引いているが」

「だったら何で?」

「あいつが魔王ではないと、四天王がそう決めたのだ」

「おいおい、家来が君主を決めんのか?」

「まさか。魔王が次の魔王を決めるのだ。ただ遺言があやふや……」

「遺言?」

「なっ、なんでもないわっ!」

シャミィは慌てて残っった鮭缶を食べ、缶の底も綺麗に舐める。

「レインに伝えておけ。貴様を必ず始末する。明日辺り覚えてろ!」

「あ、おい」

そう言ってその場を立ち去った。追いかけようとしたが、もうどこにも姿が見当たらない。なんて速さだ。

「明日、か……」

一体何が起こるのかわからない。だが、明日に備えて体力温存した方がいいと思った隼人は、そのまま家に帰った。


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