魔王様ご一行
よん
「叶えられないならイヤだ〜」
「ふんっ。俺様が無事に魔界へ戻った暁には、てめぇに一国を与えてやるよ」
「世界征服もいいけど、一国一城の主っていうのもいいかも〜」
レインの言葉に、朱里はうっとりとした表情を浮かべた。自分がそうなった時を想像しているのだろう。
「てかお前、どうやって魔界へ帰るんだよ」
確か下界から魔界へ行く方法はないのではなかったか?
「その方法が見つかるまで居座る」
「はぁ!? お姉!」
「いいんじゃない? 好きなだけいれば」
反対してくると思って話をフったのに、あっさり魔王に賛成した。
さっきの願い事2つだけが効いたのだろうか。
隼人達の両親はもう2年ほど帰ってきていないが、仕送りだけは無駄なほど送られてきている。だから、一人くらい居候ができたところで特に困ることは無い。だけどだけど!
「お姉、犬や猫飼うのとはわけが違うんだぞっ」
「大丈夫。ここは私が一肌脱ぐから……莉々子スペシャルで」
「「げ」」
隼人と朱里は思わず声を出した。莉々子スペシャルと言えば、一つしかない。
世にも恐ろしい、殺人料理。
「あ、卵がない……レイン」
「なんだ?」
台所に向かい、冷蔵庫を開けた莉々子は、レインを呼んだ。
「卵買ってきて」
「なんで」
「買ってきて」
「やだね」
「買ってきて」
「うるせー」
「……レイン」
隼人は彼のマントの裾を引っ張った。
「ここは素直に行きますって言っとけ」
「はぁ!? なんで俺様が──」
「お願いね」
レインの言葉を遮り、莉々子は笑顔で言った。
「レメディ……」
レインはそう呟いた。固まったまま、莉々子を見つめる。
「レイン? どうしたんだよ?」
「あ、いや……」
「私は莉々子よ? おつかい頼むわね」
「え? あ、てめぇ!」
レインは自らの手の中にある財布に気づいて叫んだ。
彼がボーっとしている間に、莉々子が持たせたのだ。
「ちゃっかりしてんだから」
朱里同様、我が姉ながら恐ろしい女だ。だが、本当に恐ろしいのは彼女の料理である。
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「なんで魔王である俺様が庶民の……しかも人間のためにお使いをせにゃならんのだッ!」
ブツブツ言いながら財布を握って歩くレインの後ろを、隼人はこっそり付いて来た。
何か大変なことが起きそうな気がしたからだ。しかし、何事もなくスーパーに着き、野菜売り場を通り過ぎるレイン。
隼人が大丈夫だと判断して帰ろうとしたその時──
「今なら卵が3割引きだよ〜」
ベルが鳴り響き、特売が始まった。
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