Legend of Eros
act.2
ラグナは目の前のキューピッドを見つめながら、ふと疑問がわいた。
彼はキューピッドなんだろう。みんなのことも知っていたし、ラグナがキューピッドであると見抜いた。
だが、彼から愛をまったく感じない。キューピッドは愛を纏い、それを感じることができる生き物だ。
ジェラードはラグナの醸す愛を感じたみたいだが、ラグナは彼から何も感じられなかった。それに──
「あの、ジェラード。一つ訊いてもいいですか?」
「なに?」
「今まで、どこにいたんですか?」
ジェラードが最後に会ったというキューピッドになりたてのタマクロは、もうすぐ千歳になる。
それほどの長い年月の間、一体彼はどこで何をしていたのか。
「そんなに大変なお仕事だったんですか?」
「うーん、そうだね。ある意味、大変かな。そしてまだ終わってない──いや、終わることがないんだよ」
「僕、まだまだ力不足ですけど、何かお手伝いしますっ」
「ありがとう。優しいんだね、キミは」
ジェラードは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「お礼にいいことを教えてあげる。今回キミ達がやった仕事……あれは失敗だ。なぜなら、『プラグマ』のギルバースが解決してしまったから」
「え?」
「もっと言うと、藤夜叉でもシュウでもタマクロでもムリだった。ま、一番マシな結果を得られたのはカミュだったろうけど、それもあまり期待できなかったかな」
「あの、それってどういう……」
「ラグナ」
言いかけたが、名前を呼ばれ、反射的に振り返った。カミュがこっちへ向かって来る。
「ジェラード、今カミュが……あれ……?」
彼から目を離したのは、ほんの数秒。その短い間に、ジェラードの姿は消えていた。
「どうした、ラグナ?」
辺りを見回すラグナに、そばへ来たカミュが訊ねた。
「あ、いえ。それより、藍沢さんは?」
「幸せそうだ。さすがギルバース様だな」
カミュは藍沢本人と、その後の経過を話してきたのだ。
「来週、結婚するそうだ」
「結婚ですか……」
藍沢の願いが叶う。その相手は、彼が本当に心から望んでいた女性かはわからないが。
作られた愛。だけど、彼にとっては、まぎれもない真の愛。
どうしても複雑な思いがこみ上げてきて、ラグナは素直に喜べなかった。
「だが、今後ギルバース様の手を煩わせることがないようにしないとな」
「そうですね」
次は必ず、自分の手で。ラグナは固く心に決めた。
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