Legend of Eros
act.5
皆がそれぞれターゲットの幸せを考えているのに、その答えが違う。
何が正しいのか、誰が正しいのか、わからない──いや、そもそも愛に関して“正しい答え”なんてないのだ。
だが、それでも人数分の選択肢があれば、わからなくなる。
「てかさ、なんで藤夜叉はシュウを連れてったんだよっ。未熟だから心配なんて言うくせに、俺らを放置してさっ」
京は腕組みをし、ムスッとした。
「仕方ないよ。藤夜叉はシュウの教育係だったもん」
「え、あの、シュウの教育係は、カミュじゃないんですか?」
「元々はカミュだったよ。だけど、途中で変わったの。藤夜叉も可哀想だよ、突然押し付けられてさ。カミュが教育をサボったから仕方ないけど」
タマクロの話は衝撃だった。責任感が強く、真面目なカミュが、役目を怠るようには思えない。少なくとも、ラグナは彼に放置されたことはない。
「でもムカつく。今は俺がパートナーで、教え子なのに」
「妬いてるのー? いいじゃん、京にはボクがついてるんだからさー」
タマクロは京に抱きついた。が、ふと顔を上げる。
「ところで、選択肢のマドカとミユキ。双子で顔同じなんだからさ、どっちでもいいじゃんって思わない? もうマドカでいいじゃん」
「え、それじゃあ、ミユキさんでもいいってなりませんか?」
ラグナが言うと、京は心底嫌だというような顔をした。
「俺は嫌だ。自己犠牲してまで尽くすなんて。尽くされても、相手は必ず応えるってわけじゃない。プレッシャーかけて逃げられないようにしてるとしか思えない。うぜーったらないぜ」
「ま、その辺は利用してやればいいけどさ」
なにげにタマクロは酷いことを言った。
「それより、エミリはどうだよ? あんな自由に生きてる奴、今時いねーよ」
「嫌いじゃないんだけど、違うんだよなぁ。マドカはボクのお気に入り」
「そいつ、束縛も感情の起伏も激しそうだな……」
「あのっ。藤夜叉の意見のシャーロットさんはどうでしょうかっ」
ラグナの提案に、2人はしばし考え込み、答えた。
「……ああ、あの綺麗なねーちゃんか。別に興味ないかな」
「あんなの目の保養だね。眼福、眼福」
タマクロは満腹の時と同じように、お腹をさすった。続けてラグナは質問した。
「サリナさんは、どうですか? お見合い相手の、お嬢様だそうです」
「イマイチ……ピンとこない」
「どこがいいかわかんないよねー」
それからも、しばらく論争は続いた。そして──
「あー! わかんないっ。もうギルバース様に決めてもらお!」
「けっきょく、そうなんのかよ」
頭を抱えるタマクロを見て、京は苦笑いを浮かべた。
ラグナも、タマクロの意見に賛成だった。自分達では答えの出ない問いでも、ギルバースなら解決に導いてくれる。
まだラグナ達には、難しい仕事だったのかもしれない──
********
数週間後、ラグナはカミュと一緒に藍沢の様子を見に、彼の家に忍び込んだ。
幸せそうに笑う藍沢の姿が見える。その隣にいるのは──サリナ。
大会社の令嬢で、藍沢のお見合い相手。
ギルバースが選んだのは、彼女だった。理由はわからない。ただ、彼が選んだのだから、ターゲットに1番合うんだろう。
皆も納得していた。エロスは完全無欠なのだから。
「でも……藍沢さん。あなたは、サリナさんを好じゃなかった──誰も好きじゃなかったんです……」
誰にも恋をしていなかったのに、今は彼女を愛しそうに見つめている。まるで、ずっと前から愛していたかのように感じる──
金の矢の効力を、改めて思い知った。
「地位──権力、または金、か……」
どこからともなく、声が聞こえた。
「まったく、変わってないね、ギルバースは」
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