Legend of Eros
act.2
「やぁ。こんなところで会うなんて、偶然かな?」
腰まで届くプラチナブロンドの髪。白い布を巻きつけたような服装の人物を、ラグナ達は見間違うはずなかった。
「「ギルバース様!」」
振り返ると後ろに立っていた彼に、2人はその名前を叫んだ。
「何をしているんですかっ。あなたがこのような場所に来たら──」
「ちょっと! ジロジロ見ないでよ!」
カミュの言葉を遮るほどの大声がした。
「……タマクロじゃないか」
「シュウもいますね」
いつの間にか、周りにはたくさんの人が集まっていた。その誰もが、こちらを──特にギルバースを見ている。
そしてタマクロは低く唸り、シュウは冷たい瞳で彼らを睨みつけていた。
「一体、どうしたんですか……?」
「ギルバース様が放つ“愛”に反応してるんだ。体に触れただけで至極の幸福感をその者にもたらすからな。エロスとは、そういうもの……存在そのものが“愛”なんだ」
「僕も、ギルバース様が好きでたまりませんし……人間もそうなんですね」
「ああ、そうだ。だから本能的に惹かれるし、欲しいと思う。シュウとタマクロは、人間がギルバース様に近づかないよう警戒してるんだ」
そこでいったんカミュは周りを見回し、ふぅ、と息を吐いた。
「ま、俺達キューピッドも無意識に愛を運んでしまう存在だから、今この場所は、愛で満ち溢れてるけどな」
カミュの言葉に、ラグナも周りを見回した。辺りは星屑に包まれている。人々の顔は、とても穏やかに思えた。
彼らに愛は形として見えないが、その見えない愛を肌で感じているに違いない。
人々の幸せそうな顔を見ていると、ラグナは嬉しく思った。
「もう! ギルバース様に近づくな!」
愛にひたっていたラグナは、タマクロのその一言で我に返った。
「あっち行ってってば! ほら! ……ボクに触るなー!」
「どいて、タマクロ。一掃する」
触れられ、反射的に飛び退いたタマクロを背に隠し、シュウは素早く、弓と矢を構えた。その矢は──鉛。
「シュウ、タマクロ。やめなさい」
ギルバースの一声で、2人は動きを止めた。
「皆が私を欲するのは当然のこと。仕方のないことなんだから、矢を撃つんじゃないよ。人間は愛に飢えているからね」
静かにギルバースは言った。その落ち着いてる様は、さすがエロスというべきか。
「ギルバース様。とりあえず、いったん戻りませんか」
カミュがギルバースに近寄り、そう提案した。
「だいぶ人間が集まって来ましたし……ここにいては危険です」
「……ああ、そうだね。みんな、戻るよ」
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