Legend of Eros
act.1
「すごく、人がいっぱいですね」
ラグナは、カミュと一緒に“繁華街”と呼ばれる場所を歩いていた。公園とは違い、圧倒的に人が多く、にぎやかだ。
「珍しいか?」
キョロキョロと周りを見回すラグナに、カミュは訊いた。
「はい、とても!」
「そうか。俺はあまり、この場所は好きじゃないな」
「どうしてですか?」
「このにぎやかさが、時にうるさく感じる。空気も汚い。それから──」
言いかけ、ふとカミュは足を止めた。
「カミュ?」
「静かにラグナ」
カミュは振り返り、今曲がって来た角をじっと見つめる。
「あとをつけて、何か用でも?」
そう言った。すると──
「……す、すみません。変なマネして。あなた達にお話があって……つい」
現れたのは、サングラスをかけ、帽子を深く被った男だった。
「話とは何だ?」
一歩前に出てラグナを背に隠し、カミュは訊ねた。
「た、単刀直入に言います。あなた達は……キューピッド、ですね……?」
「え……っ」
思わず冷や汗が出た。正体がバレている。人間となんら見かけが変わらないというのに、この男は、ラグナ達とその他大勢の違いを区別した。
「……よく当てたな。その通りだ」
だが焦っているラグナとは違い、カミュはそれを否定せず、あっさりと認めた。
そのあまりにも落ち着いた態度に、ラグナは少しホッとした。それは、男も同じようだった。
男はゆっくりと息を吐き、こう言った。
「やはり、キューピッドなんですね。実は……お願いがあるんです」
「お願い、か。……死ぬまで一緒にいて、じゃないなら話を聞こう」
「まさか。俺は男ですよ」
「俺達キューピッドには性別概念がない。人間と同じに考えるな」
「す、すみません……」
ピシャリと言ったカミュに、男はペコペコと謝った。
「あ、あの。お願いというのは?」
妙な空気を断ち切るように、ラグナは男に訊ねた。
「はい、あの……俺が幸せになれる相手を見つけてほし──」
「断る」
最後まで言わせず、カミュは男の要求を拒否した。
「カミュ、どうしてですか」
「ターゲットはギルバース様、または俺達の独断で決めている。人間から依頼を請けることはない」
「じゃあ、僕の判断でこの人の願いを叶えますっ」
「ラグナ。話を聞いてなかったのか? 人間から依頼を請けることはないんだ」
「どうして?」
「どうしてって……」
しばし言葉に詰まる。カミュが再び口を開こうとしたその時、背後から愛が満ちて来るのを感じた。
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