Legend of Eros
act.2
「あなたには感服しますよ」
薄いオレンジ色の廊下を歩きながら、藤夜叉はギルバースに言った。
「上手く飴と鞭を使い分けてますね」
「エロスの能力は、そうやって使うもんだよ。しかし、カミュは滑稽だったよ。警戒してたくせに、私を愛しそうに見つめて」
「それは、当然です。エロスはキューピッドの父であり、母である存在。愛しく感じずにはいられません。何よりも尊敬でき、何よりも大切な絶対の存在……」
「そのエロスに楯突き、出て行った者もいるが?」
ふと足を止めて言ったギルバースに、藤夜叉は失言だったとハッとした。
「……ジェラードのことですか。彼は、仕方のないことです。いずれ帰って来ますよ──生きていれば」
「生きてるさ。死んでいたら、彼の魂は還り、新しいキューピッドが生まれるはずだからね」
********
「さて。誰にしようか」
茂みの影から人間を眺めるカミュの隣りで、ラグナもそれに倣った。
早速、実践するということで外に出て、今は愛を与えるターゲットを捜しているところだ。
エロスが指定する仕事はベテランが任されることが多く、新米のうちは自分で捜さなくてはいけない。その分、自由ではあるが。
「ラグナ。誰か気になる奴はいるか?」
「えっと、みんな楽しそうですね……」
そこにいる人々は老若男女と様々だが、その誰もが温かい雰囲気を醸し出していた。
笑いながら会話して歩いている老人。犬と一緒に走っている男性。駆け回る子ども達。特にその子ども達を離れた場所から見守る女性達を見ていると、本当にそう思う。
この場所には、いたるところに愛が満ち溢れている。
「みんな愛しさを感じます。ここにいる人達に、愛を与える必要はなさそうですね……」
「ああ、そうだな。みんな幸せそうだ」
カミュは人々を微笑みながら見つめた。
「ここは“公園”っていうんだ。いつもいろんな愛が溢れていて、外に出る度につい足を運んでしまうんだが……」
「やっぱり惹かれますか? 愛に」
「そりゃ惹かれるさ。俺はキューピッドだぞ?」
「そうですね」
ふふ、とラグナは笑った。愛に惹かれるのは、キューピッドの性質だ。そして自らもその場所に愛を運んでしまう。
愛がある場所に愛が集まり、愛で満ち溢れるというわけだ。
「ここは好きなんだが、なかなかターゲットが見つからない場所なんだ」
キューピッドの主な仕事は、愛を生むこと、育ちかけ、失われかけの愛に愛を与えることだ。
もともと愛に溢れている場所には、用はない。
「仕事に慣れるには、とにかく数をこなすしかないからな。今回は来る場所を間違った。移動するか」
「はい」
返事をし、カミュの後に続こうとしたその時──
愛とは違う、別の何かを人々の中から感じた。
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