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Legend of Eros


act.1

「何も教えなかったってどういうことですか!」

藤夜叉を連れてエロスの部屋へ来たカミュは、ラグナが何も知らないこと、そして、ギルバースこそが、ラグナに何も教えなかったという話を聞いて、机を叩いて怒鳴った。

藤夜叉は首を竦めたが、向かいに座ったギルバースは、眉をピクリとも動かさなかった。睨みつけるカミュに、ギルバースは、

「私はね、興味があったんだよ」

そう、静かに話し出した。カミュは無言でそれを聞いた。

「ラグナの前世があまりに天才だったから、試してみたくなったんだよ。何も知らずとも、本能的に仕事を完遂できるのかね」

「ある程度は本能ですが……限界がありますっ」

「ああ、そうだね。あの時の私はどうかしてたんだ。……ラグナには悪いことをした。だが、カミュ。過ぎた時間は取り戻せない。これからのことはお前に任せるよ。今からラグナにキューピッドについて、教えてやっておくれ」

手が震えそうになるのを必死に抑えながら、カミュはギルバースに一礼し、部屋を出て行った。

「ギルバース様、やはり……ラグナのこと、愛してないんですね」

「そうだね。愛してないよ」

藤夜叉の問いに、ギルバースは迷わずそう答えた。

「……だから、キューピッドに関する仕事や教育は、何もしなかったんですね」

「愛してない者に、どうして何かをしてやろうと思う? 育ててやっただけマシだ」

「……キューピッドは愛を与えますが、与えてもらうことはできない。唯一、キューピッドに愛を与えられるのは、エロスのはずです」

それを聞くと、ギルバースはスゥッと瞳を細めた。

「藤夜叉……お前、どうやってあんな奴らを愛せると言う?」

椅子から立ち上がり、ゆっくりと藤夜叉に迫った。

「教え子もまともに育てられない。取り返しのつかない不祥事を引き起こす。頼ってばかりで何ら役に立たない。暴走気味で抑えが利かない。そしてここから逃げ出した奴……一体誰を愛せると言うんだ?」

「そ、それは……」

いつの間にか、ギルバースは藤夜叉を壁際に追いやっていた。怯える様子の藤夜叉に、ギルバースはいつもの笑顔を取り戻した。

「……その点、お前は本当に優秀だ。頭もいいし、行動力もある。ただ──欠点があるとすれば、生粋のキューピッドじゃないってことだけ」

藤夜叉から離れ、ギルバースは椅子に戻った。そして、最高の微笑みを彼に向ける。

「だけど藤夜叉。私はお前だけは愛しているよ」


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