Legend of Eros
act.4
カミュの体を纏う星屑は、2頭の馬を包み込んだ。
それは見ているだけで優しく、穏やかな気持ちになれる不思議なものだった。カミュも笑顔で2頭を見ている。だが──
「あのっ」
ふと一人の少女が近づいて来て、カミュに声をかけた。
「何か?」
「お話、してもいい?」
一瞬、カミュから笑顔が消えた。けれど、またすぐ笑顔に戻る。
「構わないよ」
それを聞いて、少女は嬉しそうに微笑んだ。すると、彼女は暖かい雰囲気を発しだした。それは、カミュと似ているように感じた。
直感的に、ラグナはわかった。
「あの人……」
恋──している。
「……厄介なことになったね」
藤夜叉は溜め息を吐いた。
「おい。どうすんだよ、藤夜叉」
「うん、仕方ない」
藤夜叉の右手に光が集まり、柄が金色の刀が現れた。
「きょ、京……」
「ビビんな。藤夜叉の道具だ。俺の弓と一緒」
「え、なんで弓を使わないんですか?」
「さぁ。弓、嫌いなんだって」
「お嬢さん」
「はい?」
藤夜叉は少女に近づいて行った。彼女は振り返る。刀が見えていないのか、何事もないように藤夜叉を見る。
そんな少女を、藤夜叉は哀しそうに見た。刀に纏わりついているのは星屑ではなく──黒い、炎のようなもの。
「残念ですが、あなたの恋は叶えられないので」
少女が何か言う前に、藤夜叉は刀で少女を斬った。すると彼女は糸が切れた人形のように、草の上に倒れた。
ラグナは、その光景から思わず目を背けた。血は流れていない。だが、藤夜叉は確かに少女を斬った。少女の心を──
黒い炎は、スゥッと彼女に取り込まれ、愛が消えるのをラグナは見た。
「……大丈夫か?」
しばらくして、体を起こした少女に、カミュは声をかけた。
すると、どうしたことだろう。目が合った瞬間、少女は立ち上がり、カミュから距離を取った。そして足早に、その場を立ち去った。
「ふぅ。ありがとう、藤夜叉」
少女が立ち去った後、カミュは藤夜叉にそう言った。
「おやすいご用だよ」
「あのっ。藤夜叉!」
ラグナは2人に駆け寄った。
「さっきの、刀……」
黒い炎を纏ったあの刀で斬られた少女には、愛の変わりに、明らかに嫌悪感が生まれていた。藤夜叉が、そのことに気づかないはずがない。
「どうして……愛を奪ったの……」
「彼女の恋していた相手が、カミュだったからだよ」
「ダメなんですか?」
「僕達は惚れられてはダメ。仕事に支障が出るからね」
「でも……」
ラグナは泣きそうになった。キューピッドは、愛を与え、幸せにするのが役目のはず。それなのに──
「変ですっ。愛を与えるのが僕らの仕事なのに……それを奪うなんて!」
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