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妖戦雲事変




「……レイグス?」

 あれからスザアや弦之助と共に家に帰り、日の出を待って再び出ると、家を囲む塀にレイグスが寄りかかっていた。

「出かけるのか?」

「あ、うん。猫さんを探しに……」

「俺も行く。危険だからな」

 当然のように、レイグスは大剣を肩に担いで踵を返し、圭介の行く先を歩き出した。そんな彼を追いかけ、横に並ぶ。

「仕方ないって……かなぎ様の命令だし」

 驚くレイグスに、圭介はぎこちない笑顔を浮かべて見せた。

「ごめん、聞いてたんだ。みんなが話してるの。スザア達、かなぎ様に命令されたんだろ。……俺を殺すようにって」

「……それを聞いて、何とも思わなかったのか?」

 圭介は少し考え、そして言った。

「ショックだった。頭の中ごちゃごちゃで、わけわかんなかった。でも、聞いたから。玉兎銀蟾としての意見じゃなくて、本当のあいつら自身の思いをさ」

「本当の思い?」

「かなぎ様の命令には従いたくないって。だから、そっちを信じるよ」

「……強いな、お前は」
 そう呟いたレイグスは、どこか寂しげだった。

「俺は……親友を、信じてやれなかった」

「レイグス……」

「スザアは優しくて、臆病だから。人の命を奪うなんて、そんなことしない、できないってわかってたのに……悪いことしたな」

 怒鳴ったことも、掴みかかったことも、今まで2人の間にはなかったとレイグスは言った。

「大丈夫だって。スザアなら許してくれるだろ……きっと」

 それを聞き、レイグスは微かに笑った。と──

「よぉ、2人とも」

「! 弦之助ッ」

 突然目の前に現れた彼に、思わず、といった感じで、レイグスは圭介を庇うように立った。

「何の用だ?」

「なんとなく、心配になっての」

「心配だと?」

「いや、お前が一緒なら大丈夫」

 謎めいたことを言って先を歩き出した弦之助のあとをついていくか否か──圭介は、レイグスを振り返った。彼は無言で歩き出し、圭介も後に続いた。

だが、その歩みはすぐに止まった。弦之助が、レイグスが不意に、足を止めたのだ。どうしたんだ、と訊くまでもなかった。

「妖気がする……」

 圭介にもそれが、そして、相手が普通の妖とどこか違うということが、はっきりとわかった。

「でも、微かだな。どんどん弱くなっていく感じ」

「……行ってみよう」

 レイグスが先頭に立って歩き出した。その妖がいるだろう場所に到達した時、圭介は思わず叫んだ。

「蛇沙那!」

 弱々しい妖気は、木々に寄りかかっている彼のものだった。蛇沙那の全身は傷だらけで、服はあちこち焦げ、破れ、ひどい状態だった。おそらく、かなぎにやられたのだろう。

 レイグスが慎重に近づき、口元に手を近付ける。

「……微かだが、まだ息がある」

「そ、そっか……」

 生きてるとわかって、思わずホッとした。だが、弦之助はじゅうぶん距離を取り、蛇沙那を睨みつけた。

「放っておけばいい」

 幼い頃から、蛇沙那に付け回されている彼からしてみれば、当然とも言える言葉だった。しかし──

「……助けるぞ」

 レイグスの口から出た言葉は、まったくの予想外だった。驚いたように弦之助は目を瞠る。

「……お前、気は確かかの」

「ああ。いたって正常だ」

 振り返り、そう言ったレイグスは、どこか張り詰めた表情だった。


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あきゅろす。
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