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妖戦雲事変




 圭介は言葉を発しず、またスザアも一言もしゃべらなかった。

「そういえば、お前、黄金比なんだってな?」

 圭介は、スザアへの質問で沈黙を破った。

「え……誰から聞いたの?」

 彼の顔に、戸惑いの色が浮かぶ。

「蛟龍が……」

「そう。蛟龍に会ったんだね」

「うん。治してほしい物があって。だけど、お前の許可がいるんだってさ」

「治してほしい物、か。何か聞いてもいい?」

「……狂骨の骨。粉々に砕けたんだ」

 そうして、骨が粉々になった経緯を簡単に話した。

「なるほど。だから蛟龍に治ったと思わせてほしいわけね」

「思わせる?」

「あ……ううん、なんでもないよ。でも残念だなぁ。許可してあげたいところだけど、蛟龍の力は今、他のことに使うわけにはいかないんだ。……愛する人のために」

「愛する人のため……?」

「うん。僕の長年の夢が、もう少しで叶うんだ。大切な仲間の幸せのためにも、今はダメなんだ」

「そうか……」

 それを責める気にはなれなかった。何か深い事情があるのだろう。

「終わったら、圭介君の力になれるよ。待っててくれる?」

「ああ。狂骨には何とか言っとくよ」

「うん。ごめんね」

「? ……ああ、いいよ」

 妙な感じを覚えた。前にも、スザアに謝られた気がする。

 圭介の家の手前で、スザアは歩みを止めた。

「僕もう行かないと。あ、猫さん、ちゃんと拾って帰りなよ。バイバイ」

「え?」

 突然で、すぐに理解できなかった。が、そういえば、あの時の騒ぎのまま──

 いったん家に帰ることも考えたが、やはり猫さんが心配だ。圭介の足は再び満月森へと向いた。

「なんで、スザアは猫さんとはぐれたこと知ってるんだ……?」

 そんな疑問を呟きながら森に入ってすぐ。何人かの人影と、話し声が聞こえた。茂みに隠れながら近づくと、それは、玉兎銀蟾の四天王とスザアだった。

 声をかけようとして、足が止まる。レイグスから言われたことが、フと頭をよぎったからだ。と──

「スザア、お前……」

 レイグスが現れた。やはり声をかけなくて良かったとホッとした瞬間、彼はスザアに歩み寄り、その服を掴んでねじ上げた。

「お前、自分が何をしたかわかってるのかっ」

「何をって何?」

 ツラそうに顔を歪めるレイグスを、スザアは静かに見つめた。

「……とぼけるな。丑三つ時、満月森で、圭介を弓で射抜いたのはお前だろ……っ!」

 レイグスの言葉に、圭介の心臓は大きく、どくん、と跳ねた。

 今、レイグスは何と言った? あの矢を放ったのは、スザアだと──?

「そうだよ」

 スザアはあっさり肯定し、レイグスの手を払った。

「圭介君の血で、酒呑童子と茨木を誘き出す。そこにブリジットとインサーニアが不意打ち、かなぎ様が強力な一撃を食らわす。なかなかいい奇襲作戦だと思ったんだけどね。キミのせいで、失敗に終わったよ」

「ま、待て。どういうことだ? 俺のせいで酒呑童子と茨木を倒せなかったって言うのか? 俺は、お前達の邪魔した覚えは……」

「レイグス。酒呑童子に痛手を負わせるだけじゃないんだよ、この作戦」

 そう言って、ブリジットは目を伏せた。

「……圭介を、この件に乗じて処理する算段だったの」


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