妖戦雲事変
参
「何が危険なんだよ?」
「……幹部の4人には近づくんじゃない。かなぎ様はもちろん……スザアにもだぞ」
「幹部って?」
「ブリジット、朱刃、インサーニア、弦之助のことだ。酒呑童子を倒した頼光四天王──それぞれ綱、貞光、金時、季武の生まれ変わり」
「あんたとブリジット以外にも、伊勢を倒した生まれ変わりがいるのか……」
レイグスの話を聞いて、圭介の中に疑問が生まれた。
「ちょっと待てよ。なんで、四天王の生まれ変わりがそんなに揃ってんだよ?」
「かなぎ様は、酒呑童子討伐に関わった者をそばに置きたがる。生まれ変わりであるインサーニアを、わざわざ探し出して日本に呼び寄せたぐらいだ──」
「それも疑問だけどっ」
レイグスが言うのを遮る形で言葉を発し、彼は怪訝な顔をした。
「何だ?」
「ブリジットは、この村の出身だろ。朱刃に弦之助……あんたも。これって、偶然なのか? 酒呑童子討伐に関わったうちの四人もが同じ村の生まれなんて……」
何か作為的なものを感じる──
「……偶然だろ」
「でも……」
言いかけたが、圭介はとっさに止めた。レイグスが辛そうに顔を歪めていたからだ。怪我が痛むのか、今の話をしたくないからなのか、それはわからない。
「……そういえば、さ。そばに置きたがるって言う割には、あんたはかなぎ様に邪険にされてるような気がするけど」
「思い通りにならないからだろ。幹部以外で、直に話すことが許されてるのは俺ぐらいなのに、かなぎ様の気に入らないことするから……」
「どんなこと?」
「……いや、なんでもない。とにかく、ナイトメアと一緒に帰るんだ。さっき言ったことも守れよ?」
そう言ったのを合図に、レイグスの影が伸び、そこからナイトメアが滲み出た。
「誰にも近づくなってことだろ? わかったよ」
はいはい、と適当に返事をし、圭介は踵すを返した。扉の前で振り返り、レイグスに訊ねる。
「でも、なんでだよ?」
「今はもう、誰も信用できないからさ」
「スザアのことも……?」
レイグスから返答はない。それは、肯定という意味なのだろうか。
「他の奴はいいとか言わないけどさ……親友のことは、信じてやれよ。なんか、悲しいじゃん、そういうの……」
それだけ言って、静かに扉を閉めた。
「……その親友が、今一番怪しいんだよ」
圭介が出て行ってから、レイグスは小さく呟いた。
********
「圭介君」
扉を出たところで、圭介は自分の名前を呼ばれてビクッとした。なぜなら──
「スザア……」
「どうしたの? こんなところで」
相変わらず優しげな微笑みを浮かべ、彼は近寄って来る。
「あ、えっと……帰ろうかな〜と思って」
「そう。じゃあ、僕が送って行くよ」
「え……っ」
「ん? 何かマズいことでも?」
「い、いや、別に……」
キョトンとする彼に向かって、圭介はそう答えることしかできなかった。
「じゃあ、行こうか」
そう言うと、スザアは先に立って歩き出した。
「……ごめん、レイグス」
さっそく彼との約束を破ることになってしまい、圭介は小さく謝った。
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