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妖戦雲事変




「何が危険なんだよ?」

「……幹部の4人には近づくんじゃない。かなぎ様はもちろん……スザアにもだぞ」

「幹部って?」

「ブリジット、朱刃、インサーニア、弦之助のことだ。酒呑童子を倒した頼光四天王──それぞれ綱、貞光、金時、季武の生まれ変わり」

「あんたとブリジット以外にも、伊勢を倒した生まれ変わりがいるのか……」

 レイグスの話を聞いて、圭介の中に疑問が生まれた。

「ちょっと待てよ。なんで、四天王の生まれ変わりがそんなに揃ってんだよ?」

「かなぎ様は、酒呑童子討伐に関わった者をそばに置きたがる。生まれ変わりであるインサーニアを、わざわざ探し出して日本に呼び寄せたぐらいだ──」

「それも疑問だけどっ」

 レイグスが言うのを遮る形で言葉を発し、彼は怪訝な顔をした。

「何だ?」

「ブリジットは、この村の出身だろ。朱刃に弦之助……あんたも。これって、偶然なのか? 酒呑童子討伐に関わったうちの四人もが同じ村の生まれなんて……」

 何か作為的なものを感じる──

「……偶然だろ」

「でも……」

 言いかけたが、圭介はとっさに止めた。レイグスが辛そうに顔を歪めていたからだ。怪我が痛むのか、今の話をしたくないからなのか、それはわからない。

「……そういえば、さ。そばに置きたがるって言う割には、あんたはかなぎ様に邪険にされてるような気がするけど」

「思い通りにならないからだろ。幹部以外で、直に話すことが許されてるのは俺ぐらいなのに、かなぎ様の気に入らないことするから……」

「どんなこと?」

「……いや、なんでもない。とにかく、ナイトメアと一緒に帰るんだ。さっき言ったことも守れよ?」

 そう言ったのを合図に、レイグスの影が伸び、そこからナイトメアが滲み出た。

「誰にも近づくなってことだろ? わかったよ」

 はいはい、と適当に返事をし、圭介は踵すを返した。扉の前で振り返り、レイグスに訊ねる。

「でも、なんでだよ?」

「今はもう、誰も信用できないからさ」

「スザアのことも……?」

 レイグスから返答はない。それは、肯定という意味なのだろうか。

「他の奴はいいとか言わないけどさ……親友のことは、信じてやれよ。なんか、悲しいじゃん、そういうの……」

 それだけ言って、静かに扉を閉めた。

「……その親友が、今一番怪しいんだよ」

 圭介が出て行ってから、レイグスは小さく呟いた。



********



「圭介君」

 扉を出たところで、圭介は自分の名前を呼ばれてビクッとした。なぜなら──

「スザア……」

「どうしたの? こんなところで」

 相変わらず優しげな微笑みを浮かべ、彼は近寄って来る。

「あ、えっと……帰ろうかな〜と思って」

「そう。じゃあ、僕が送って行くよ」

「え……っ」

「ん? 何かマズいことでも?」

「い、いや、別に……」

 キョトンとする彼に向かって、圭介はそう答えることしかできなかった。

「じゃあ、行こうか」

 そう言うと、スザアは先に立って歩き出した。

「……ごめん、レイグス」

 さっそく彼との約束を破ることになってしまい、圭介は小さく謝った。


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