妖戦雲事変
弐
「あ、そうだ! これからレイグスのとこに様子見に行くんだけど、あんたも来ない?」
突然、場の雰囲気を変えるようにブリジットが大きい声で言った。
「レイグスのとこへ?」
「ほら、傷開いたらしいじゃん。……心配だし」
「うん、行くよ」
「じゃあ、みんなで行こ?」
朱刃は頷き、インサーニアは黙って先に立って歩き出した。
********
「おっ。みんな来たな」
『医務室』と書かれた部屋に着くと、中では弦之助がレイグスの眠るベッドの傍らに座っていた。
朱刃がベッドの横に立つと、雲外鏡がスッとレイグスの姿を写す。
「──嘘つき」
「やめなっ」
朱刃の声でしゃべった雲外鏡を、ブリジットは諫めた。だが、雲外鏡はレイグスの声になり、更に続ける。
『矛盾してるだろ……守るって言いながら危険にさらすなんて。なんで、みんな従ってる? もう今は誰も……』
そこで言葉は途切れた。レイグスがうっすらと目を開けたのだ。
「レイグス、大丈夫か?」
訊ねると、ぼんやりとした目で圭介を見て、レイグスは微笑んだ。だが、弦之助達がいることに気づくと、飛び起きようとし、苦痛に顔を歪めた。
「ムリするんじゃないよ。怪我してんだから。怪我人はおとなしく寝てなさいね」
ブリジットが溜め息混じりに言った。
「……それじゃ、お目覚めのようだし、俺達は行くかの」
弦之助が立ち上がると、ブリジット、朱刃、インサーニアも踵すを返した。
「待て……っ」
レイグスは扉の方に手を伸ばし、彼らを呼び止めようとしたが、4人はそれを無視して出て行った。
「レイグス? なに必死になってんだよ?」
圭介は訊いたが、レイグスは答えず、視線を下に落とした。
「……そういえば、スザアは? あいつを見なかったか?」
「え……スザアならさっき、かなぎ様の部屋にいたぞ」
「そうか……」
「……どうしたんだよ?」
力なく答えるレイグスに違和感を覚え、圭介は訊いた。
「……ずっと変だと思ってた。ナイトメアが、スザアの言うことを聞いた時から」
「何が変なんだよ? 前に、あんたが蛇沙那に刺された時だって、ナイトメアにあんたを運ぶよう言ったのは、スザアだぞ」
そう言うと、レイグスはバッと顔を上げた。その表情は、驚きに満ちている。
「なんだと? あの時、俺を運んだのは、インサーニアじゃないのか?」
「いや、インサーニアは、ずっと蛇沙那と睨み合ってたから……そっか、あんた気を失ってたから、知らないんだな」
レイグスは再び視線を落とし、何か考えているようだった。そして──
「……圭介。ここにいちゃいけない。今すぐ帰るんだ」
「は? なんで」
「もうすぐ夜が明ける。お前のことだ。家の人に断って出てきたわけじゃないんだろ?」
「それは……」
言葉が続かない圭介に、レイグスはそれが事実だと悟ったようだ。
「だったら帰るんだ。それに……玉兎銀蟾は──危険だ」
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