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妖戦雲事変




「レイグス、なんでここに──」

 圭介の声はしかし、レイグスのそれに遮られた。

「お前、利用されたんだ。酒呑童子を誘き出す餌としてな」

「は、はぁ!? どういうことだよ……? あ、まさか、あの手紙……っ」

「……手紙、か。バカ正直にそれを信じて来たんだろ」

「悪かったなっ。バカで!」

 そう言ったが、レイグスは聞いていないようだった。静かに夜空を仰ぐ。

「! ──来るっ!」

 何が、と聞く暇はなかった。

「スターダスト」

 そう言う声が辺りに響き渡り、突如、夜空が輝き、星が──光が降り注いだ。それとほぼ同時に、レイグスは圭介を庇うように覆い被さる。光は彼らとブリジット、インサーニアを避け、伊勢と蛇沙那を襲った。

 耳をつんざく爆音がし、風が髪を引っ張る。風のため細めるしかない目は、圭介を庇うレイグスの顔が、辛そうに歪んでいるのを見た。

「……っ!?」

 ようやく風が治まった時、そこには、二体の怪物が立っていた。三メートルを越す巨体の全身が赤い毛に覆われた、猛々しい角が生えている者。もう一方は、背丈が六メートルはあるだろか。白い毛並みに、角が5本、目にいたっては15個もあった。

「酒呑童子に茨木……ついに本性を現したな」

「こいつが……伊勢と蛇沙那!?」

 レイグスの言葉に、圭介は驚きを隠せなかった。目の前の怪物が、いつも飄々としている伊勢や蛇沙那とは全く結びつかない。だが──

『……なにが“夢見心地(スターダスト)”だ。冗談キツいよ、まったく……』

 赤い怪物の口から、そう声が響いた。しゃがれてはいたが、聞こえた声は間違いなく、蛇沙那のものだった。そして、続いたブリジットの言葉が、それが事実であることを証明した。

「かなぎ様のスターダストを受けても、まだ立ってられるなんて……さすが酒呑童子に蛇沙那」

『確かに、人型でまともに喰らえばヤバかった。だから受ける直前、鬼の姿になったわけさ』

「……やっと醜態をさらけ出したか」

 ふとそんな声が、暗闇から聞こえた。そして茂みから、一人の男が姿を現した。

 まだ若い少年のようだが、年ははっきりとしない。白い衣装に身を包み、髪は高く結い上げて簪を挿し、両側は三つ編みにして束ねている。

「貴様のその姿を拝めるのは久しぶりだな」

 その声は、体を芯から揺さぶった。

「誰だよ、あいつ……」

 現れた人物から目を離せないまま、圭介はレイグスに訊ねた。

「あれが『玉兎銀蟾』の長──かなぎ様だ」

「『玉兎銀蟾』って何?」

「組織の名前だ。人を妖から守る組織……」

「おい、組織って──」

 重ねて訊ねようとした圭介の頭を、レイグスは軽く押さえた。

「会いたかったよ、酒呑童子」

 かなぎはなんとも冷たい眼差しを伊勢に向け、そう言い放った。


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