[携帯モード] [URL送信]

妖戦雲事変




「じゃあ、僕達は用が済んだから、そろそろ行くね」

「あ、スザアッ」

立ち去ろうとした彼を、圭介は呼び止めた。

「その、レイグスは……」

「大丈夫だよ。彼、そんなに柔じゃないから」

スザアはふふ、と微笑み、ブリジットに続いて窓を飛び越えた。

(……そういえば、一体何の用だったんだ?)

2人が出て行った窓を見つめながら、そんなことを考えていると──

「うわぁー!」

「……なんだぁ?」

外から悲鳴が聞こえ、圭介は飛び出した。

そこには蛇沙那がいて、猫さんをつまみ上げて宙ぶらりんにしていた。

「ふーん。人形の付喪神とは面白いな」

「た、た、助けて〜」

「猫さんから手を放せ!」

圭介が言うと、蛇沙那はポイッと猫さんを投げて寄越した。上手く受け止めると、震える猫さんをポケットに押し込んだ。

猫さんを自転車に置いて来たのは、間違いだったと痛感した。

「言われなくても放すよ。……僕はあの人以外どうでもいいから」

「……伊勢のことか?」

踵すを返した蛇沙那の足が、圭介の言葉に止まる。

蛇沙那が小さく呟いた最後の部分まで、圭介にはきっちり聞こえていた。

「図星?」

彼は圭介を睨んだが、やがて、ふぅ、と息を吐いた。

「……あの人は、僕のすべてだった」

「うん。一緒に都を荒らし回った鬼って聞いたよ」

「心から尊敬する人だった。ずっとそばにお仕えしたかった」

淡々と語っていた蛇沙那だが、徐々にその顔を怒りに歪ませた。

「──すべて過去形……“だった”んだ。キミがいるからな……っ!」

「!?」

蛇沙那の右手の爪が、みるみるうちに長くなる。

「あの人は完璧だ! けどキミがその完璧を欠いてる! 史上最強の妖が、人間のガキと一緒にいるなんて……!」

自らに伸ばされた爪を、圭介は反射的に避けた。代わりにそれを受けたのは、自転車の前カゴに入っていた、狂骨の大腿骨。

「げっ。骸骨の骨が……」

大腿骨は粉々に砕け、見るも無惨なことになってしまった。

しばしの沈黙の後、蛇沙那は爪を引いて、その場から立ち去ろうとした。

「お、おいっ。どこ行くんだよ!?」

「なんか萎えた。帰るよ」

「なんだよ、それ」

思わず溜め息がでる。

「狂骨に言っといて? ごめんって」

「自分で言えよっ」

「どうして僕が。キミが攻撃を避けなければ、骨が砕けることはなかったのに」

「避けなきゃ俺死んでたから!」

「別に構わないよ」

「う……」

サラリと言い放つ蛇沙那に、圭介は言葉を失う。

微かな笑みを浮かべながらも、蛇沙那の目は冷たく、笑っていなかった。


[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!