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妖戦雲事変




「蛇沙那がいるってわかってたのに、なんであたしに知らせなかったんだい?」

家の中に入り、最初に聞こえたのは女性の声だった。そしてスザアの声が、彼女をなだめる。

「ブリジット、キミは熱くなりすぎるから。だから朱刃ちゃんは見せなかったんだよ」

「何言ってんの。蛇沙那相手に熱くならないわけないよっ。あれからレイグスは、意識戻らないじゃない」

「レイグスが!?」

レイグスの名前を聞いて、思わず2人の前に飛び出してしまい、圭介はギョッとしてこちらを見る女性──ブリジットと目が合った。

おそらくレイグスよりもひとつかふたつ歳が上だろうと思えた。豊かな胸を誇示するように、胸元の大きく開いた服。その胸元にあしらわれた牡丹の花が、彼女の気品さと気高さを表しているようだった。

「け、圭介君。どうしてここに……?」

「ちょっと。圭介って……この子が?」

スザアが頷くと、ブリジットはスッと目を細めて圭介を見た。

「あんたかい。レイグスをたぶらかしたって子は。どこの子だい?」

それを聞き、スザアは苦笑いを浮かべる。

「たぶらかしたってそんな……。ほら、村で結界を張ってる家があるでしょ? そこのお孫さん」

「な、なんで、じいちゃんの結界のこと知って……」

今度は圭介がギョッとした。

家に結界が張ってあることは、圭介と伊勢、そこに住む妖達、そして張った本人の祖父しか知らないはずだ。

普通の人間にはもちろん、妖には絶対に見えない。

もし他に、結界の存在に気づく者がいるとすれば、その理由はただ一つ。

「そりゃあ僕達、キミのお祖父さんと同じ能力を持ってるからね」

少し誇らしげに、スザアは答えた。

そう。自分達と同じ、妖や霊が見える者──

「2人とも霊感あるんだ?」

「あんた、あたし達をナメてんのかい?」

一応聞いてみると、なぜかブリジットはムッとした。

「圭介君。霊感じゃなくて、霊能力だよ」

「霊能力?」

圭介は疑問符を浮かべた。

「……どう違うんだ?」

「霊能力っていうのは、霊的な力を使って普通の人間じゃなし得ないことを行うこと。霊感は能力と呼べるほど自在に使えないけど、霊的なものを感知する感性だよ」

「……つまり、結界を張れるじいちゃんは、霊能力の持ち主で、あんた達もそうってこと?」

ブリジットはうんうんと頷いた。

「そうそう。あんたは霊感はあるけど、自在に使えないもんね」

だからレイグスが苦労してるの、と彼女は言った。

「ごめんね」

スザアは圭介を向き直る。

「ブリジット、レイグスが心配なんだよ。圭介君のこと、嫌いなわけじゃないから」

そうして優しく微笑んだ。


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