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妖戦雲事変




「インサーニア、後は任せたよ」

スザアが言うと、桑染色の髪の人物は、頷いた。ゆっくりと蛇沙那に歩み寄る。

攻めるでも退くでもなく、蛇沙那は近づくインサーニアを見て溜め息を吐いた。

「この僕に化け物の相手をしろって?」

「インサーニアは化け物じゃない!」

スザアはキッと蛇沙那を睨みつけた。

「ナイトメア、レイグスを弦之助さんのところまで運んで──ミルキーウェイ!」

ナイトメアの鬣から、星屑が舞う。それがレイグスを包み、体を浮き上がらせると、彼の体はまるで流されるように森の奥へ運ばれて行った。

ナイトメアが形作る、星屑の流れ。それは、まるで天の川のように美しい──

「圭介君っ」

見とれていた圭介は、スザアの声で我に返った。

「早く逃げるよっ」

「あ、でもあの人──インサーニアは……」

睨み合い、お互いを牽制しているインサーニアと蛇沙那を見、圭介は言った。

「彼なら心配ない。イーラが憑いてるからね」

その意味がわからなかったが、今は聞かなかった。スザアはインサーニアと蛇沙那をチラッと見てから、圭介の腕を掴んで走り出した。



********



学校を早退し、圭介は自転車の前カゴに買い物袋を入れて、祖父の家に向かっていた。

「圭介、大丈夫なの?」

「大丈夫!」

不安そうに訊いてきた猫さんに、圭介は言い切った。

前カゴには、買い物袋の他に猫さんと──狂骨の大腿骨を乗せている。

家に一旦戻り、荷物を置いた時に、ずっと机の引き出しに閉まっていた大腿骨を持ち出したのだ。

「もぅ。狂骨が来たらどうするの?」

自身の体の一部を感知して、狂骨が現れるかもしれないと、猫さんは気が気でないのだ。だが圭介は、ハナからそのつもりだ。

「その時はちゃんと返すよ、大腿骨」

坂道を上がり、村の入口付近にある家の前にさしかかった。

思わず自転車を止める。

「レイグス……大丈夫かな」

昨日この場所で、彼は蛇沙那に刺され、怪我をした。

“弦之助”という人物の元にナイトメアが運んでから、レイグスの姿は見ていない。

あの怪我では、すぐに動けるわけでもないだろうけど。

(ん……?)

しばらく家を眺めていると、家の裏手から紫苑色の髪を靡かせ、スザアが入って行くのが見えた。

「何してんだ……?」

おもむろに圭介は、その後を追った。


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