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妖戦雲事変




「れ、レイグスッ」

古びた家の前に立っているレイグスを見つけ、圭介は声をかけた。

ずっと家を見つめていたレイグスは、ふと圭介に視線を向け、驚いた表情を浮かべた。

「なんで、お前がここに」

「じいちゃんが教えてくれた。平井さん──レイグスのじいちゃんが、ここに住んでたって聞いて」

ハンカチを返すにも、レイグスの居場所がわからない。そんな圭介に、祖父の康彰はこの場所を教えてくれた。

この村でレイグスが行く場所といえば、彼の祖父──平井さんの家だろうと。

レイグスの隣にいる、黒く美しい馬をチラッと見ながら、圭介は彼に近寄る。鬣から尾の部分が天の川のように煌めいているその馬──瞬時に妖だとわかった。

「心配するな。こいつはナイトメア」

「ないとめあ……?」

「俺の使役する妖だ。日本の妖じゃないから、珍しいだろ?」

「う、うん。綺麗……」

星が散らばったような毛並みに触れようと、手を伸ばしたが──

「こいつは上級の妖だからな。黄金比の血はご馳走だぞ」

それを聞いて、慌てて手を引っ込めた。

「……あ、そうだ。ハンカチ、ありがとっ」

思い出したようにポケットからハンカチを取り出し、レイグスに差し出す。

「血の痕、綺麗にとれなくて……ごめん」

「いい。この血は使えるからな」

「そのハンカチに付いた血、使うのか? 何に?」

「妖を弱らすことぐらいはできる。他にどんな使い道があるって?」

どんな──?

黄金比の血に濡れた妖は死ぬ。でも上級の妖にとって適量はご馳走で。弱った妖には治癒力になる。

「生かす、とか……使えない?」

「……バカか、お前は」

怪訝な顔して、レイグスは圭介を見た。

「妖を生かして何になる。黄金比の血は、妖を殺す貴重な特効薬だ。それ意外の何物でもない」

レイグスの言葉が、ズンと圭介の心に突き刺さる。

『情が移ったんだろうね』。

嬉しかった、スザアの話を聞いて。

自分を想ってくれる人がいるということ。無条件でレイグスが守ってくれているということ。

だが今の彼の発言は、その行為に利点があるからに聞こえた──

「……俺が黄金比だから、だから助けてくれるんだ……?」

言ってから少し後悔した。

そうだ、なんて言われた日には、立ち直れないかもしれない。

「それは……」

だが圭介は、彼の返答を聞くことができなかった。

「ぐ……っ」

急にくぐもった声を出し、レイグスはゆっくりとその場に膝をつき、そのままうつぶせに倒れた。あろうことかその背中には、何か鋭利な刃物で突き刺されたような痕が残り、そこから鮮血が溢れ出して止まる様子を見せなかった。


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あきゅろす。
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