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:~ 嘘つきの最期




せっかく鹿野さんが怖くなくなって優しい人に戻ったのにその所為でこの世界が崩壊し始めて死にそうとかありえないでしょ。なんなのこれ。結局私達死ぬの?

「落ち着いて花」

「京子…落ち着けるわけないでしょ!」

「花はカルシウム足りないからな」

「そーゆうあんたは血液不足よね」

嫌味のつもりでいったんだが「うまいね!」って褒められてしまった。なんか私凄く嫌な奴見たいじゃない。
何だかんだ言って美夜は一番の負傷者で今日の頑張ったで賞とれるわよ。怪我でまともに歩けないから足手まといになると思って私達を先に逃げさせて後からこようとした考えは許せないけどね。
風紀委員長に担がれなければあんたほんとに死んでたかもしれないんだからね!今だ俵担ぎされている美夜はあからさまに不機嫌そうな顔をして大人しくしている。伊藤あずさが美夜の機嫌を直そうと近づくと凄くうれしそうな顔をしていた。ほんといい子ねあの子。鹿野さんはどのくらい崩壊しているのか眼を閉じて念視している。

『あの人は、誰?』

眼を開いた鹿野さんが呟いたとたん地面がまた大きく揺れて足もとの廊下に罅が入り始めた。このままじゃ此処もすぐに崩れる!

眼の前の階段が急にぼわっと明るくなって美青年が現れた。またもや綺麗な顔だこと。なによ此処、美人と可愛い子とイケメン率高くない?何人か幽霊だけどね!

「…荻野君!な、んで」

美夜と話していた浅黄は彼に気づくと階段を駆け上がって傍に近づいた。山本と獄寺は「あいつ放送室の時に助けてくれた奴じゃねえか!」「はぎの、って言ってたな」そう言ってるって事は一回会ったことあるってことよね。じゃあ、敵ってわけじゃないか…

「雲雀!階段に登らんとやばいよ」

「君に言われなくてもそうするよ」

取り合えず階段を駆け上がると美青年はそれを待っていたかのように浅黄の手を掴んで階段を駆け上がっていった。口を開いているから喋ってるのかしら?

「ついてこいって言ってる」

「美夜ちゃん何でわかるの?」

「口の開き方で大体わかるんだよ。私はなんてったって天才だからね!」

やばい。こいつほんとに天才なのかもしれないって思ってきた。たまに美夜は頭いいのよね。それも獄寺によく似た感じに。普通のテストとか下な癖に無駄に知識豊富だしあんたはきっと社会で生きていけるタイプだわ。じーっと美夜を見てたら目があって「照れちゃうだろ」って無表情で言われた。やっぱりただの馬鹿だと思う。

屋上まで一気に階段を上ったから流石に疲れた。息切れがやばい。風紀委員長とか美夜を担いでいたのに何で息切れとか汗ひとつかいてないのよ。沢田も何気疲れてなさそうだし。こんなに皆運動能力あったんだ。京子と私は息を整えるので必死だわ。
肩から降ろされた美夜は一応お礼を言っていた。めずらしいとこ見ちゃった。

「で、此処からどうすりゃいいんだよ」

荻野って名前らしい美青年は浅黄を抱きしめて頭を撫でていた。こんなとことでイチャついてんじゃないわよって思ったけどあの人たちはこんなとこじゃなきゃイチャつけないのよね。皆それを分かってるから何も言わず見て見ぬふりしているんだろう。フェンスに駆け寄って周りの様子を見たら地割れになっている亀裂から底が見えなくて真っ暗になっていた。体育館は既に潰れていて屋上も斜めっていて気を抜いたら転がって落ちてしまいそうだ。










美青年の荻野くんって人と浅黄さんは最後の別れのようなものをしていた。喋れない荻野くんは浅黄さんの手を繋いで思考を伝えているらしい。だから俺達にその会話が聞こえる事はなかった。鹿野さんはその様子を温かく見守る様にして空を見上げていた。とても悲しそうで、きっと彼女もちゃんと別れを言いたかったんだろうな。空を見上げる鹿野さんの手を美夜は握った。俺も彼女の傍に寄って美夜の隣に立つとこの時代に生まれたかったって涙目で微笑んでいた。

「もう何も心配しなくていいよ」

『…うん。私はあの人が来る前に戻らなきゃ』

「あの女の人達の名前も顔も覚えたから後はあたしがなんとかする」

『いいの。あの人が我慢しているから、私はもう』

「かずはさんは優しいね。でもね、あたしは優しくないからしょうがないよ」

え、なに言ってんのこいつ?何で2人で笑いあってんの?もしかして元の世界に戻ったらお前あの女子達シめる気なのかよ!俺達の世界じゃその人たち大人だからな!無茶言うなよ!

「ツナ。あたしを舐めたらあかんぜよ」

「お前を舐めた事なんて一度もねぇよ。腹壊しそうだもん」

「なんかツナ可愛くない」

「かっこよくなってきただろ」

「美少年に謝ってこい」

「人と比べるなよ。寧ろお前が俺に謝れ」

俺と美夜があーだこーだ言っている様子を見て鹿野さんはやわらかく微笑んで獄寺君が俺側について山本が仲裁に入る。ああ、なんかこの感じ懐かしいな。

―…ゴゴゴゴッ

大きく地面が揺れる音がして足もとが揺らぐ。バランスを崩して斜めっている方に滑らないようにフェンスまで美夜の腕を掴んで走った。
鹿野さんも美夜を運ぶのを手伝ってくれたから軽かったな。美人に肩貸してもらったって照れてるこいつが凄くうぜえ。

浅黄さんは別れを終えたらしく涙を何度も拭いて目元を赤くしていた。荻野くんは叫んでいるみたいだけど俺にはなんていっているのかわからなかった。
一体どうしたら元の世界に戻れるんだ…

「屋上から飛び降りろって言ってる」

美夜が説明した言葉に皆驚いて荻野くんを見たらほんとにそうならしくうなずいていた。
本気で言ってんのかよ。戻れなかったら地面に激突かあの真っ暗い底の中に落ちてくんだよ!?

「ほんとに死ぬかもしれないじゃないっ!」

「最後にケーキ食べたかったよぉ」

「やるんだったら俺は屋上ダイブ2回目になるな」

「何やってんだ野球馬鹿!よく生きてたなっ!」

「そしたら俺も2回目だよっ!」

なんかこれ遺言見たいになってるし!雲雀さんなんか既にフェンス乗り越えて飛び降りる準備してるし。

「嘘だったら咬み殺す」

あの人マヂな眼してるよ!死んだら化けて出てきてほんとに荻野くん咬み殺す勢いだよ!
またもや地震見たいに揺れて今度は屋上も崩れてきた。その崩れた破片が坂になってるからこっちに向かってきて顔や腕にあたって痛い。ほんとにヤバいよこれ!

「雲雀が1人で落ちるの不安そうだから一緒に行ってやるよ。まったくしょうがないなー」

やれやれとほんとにめんどくさそうに堂々と俺の上を乗っかって「うんしょっ」とフェンスをこえた美夜は変な掛け声を上げて思いっきり雲雀さんにアタックして屋上から飛び降りた。踏まれたところが痛い。それよりもあいつに突撃された雲雀さんのが痛そうだったな。その後を獄寺君が慌てた顔で追いかけて落ちて…。
もうやだこんな自殺シーン見るの。そのうち山本も「行くっきゃねぇか!」って笑顔で言ってくるしさ。
京子ちゃんと黒川も2人で手を繋いで飛び降りちゃったし怖いとかそんなん頭に浮かばないのかな?

「浅黄さんと鹿野さんと荻野君は…?」

一応フェンスを越えたから準備万端なんだけど心の準備って大事じゃん。だから時間延ばしたいんだよ。
そう聞いたら荻野君は残念そうな顔で首を横に振って浅黄さんの背中を押してフェンスに寄せた。飛び降りろってことなのかな?

「ど、うして荻野君…」

驚いている浅黄さんの答えに荻野君は答えないで苦々しい顔で俺の方を向いて首を縦に振った。これは俺でも意味が分かったけど、浅黄さんはそれでいいのだろうか?彼女は飛び降りるのを拒否して彼と居る事を選んでるし…

『私達は貴方達と一緒にいけないんです。だから、行くべき場所へ向かいます』

きっとそこに行ってしまったらもう2度と会えないんだろうな。…じゃあ、浅黄さんは何で?

―……ゴゴゴッ

一段と大きい揺れが起きて足場さえもなくなってきた。山本を見ると意思は決まっていて俺は浅黄さんの腕を掴んで飛び降りようとしたが彼女は一向に動かない。え、ちょ、山本いっちゃったし!俺が最後!?てか、下が真っ暗なんだけどおおお!
浅黄さんの方に顔を向けると荻野くんが両肩を掴んで浅黄さんを付き落とした。腕を掴んでいた俺も一緒に落ちる。荻野くんは微笑んでいたけど涙を流して≪さようなら≫っと言っていた。これは俺でもわかる。
下を見るのが怖いから仰向けに落ちる体制を変えたらやっぱり視界は真っ黒になって、あぁ、俺あの真っ黒い底でペチャンコになっちゃうんだなって想像して目を閉じた。




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