浅黄ほんまにめちゃかわいい。どうしよこれ、抱きついていいかな?あ、血ついちゃうからやめた方がいいかな。でもね、あたいだって好きで血だらけなんじゃないんだよ。みんな避けろっていうけど実際はそんな簡単にできないからね。大変なんだよ。一回やってみろコンニャロー!背中痛いしまぢで。そんな深く刺されてないけど風呂入るときいたそーっ。剃刀で背中の毛そるの失敗して切っちゃったって感じに痛いよ。
『あ゙ぁあああああ』
叫び泣きしているかずはさんはきっと自分の怨みの捌け口をどうしたらいいかわからないんだろう。
今度はだいじょうぶだ。そう信じてツナの止める声は聞こえないフリしてかずはさんの傍に寄る。
彼女に画面が見えるように携帯を開いてあげるとメールと着信が沢山入ってた。全部彼氏さんからの見たいで最初の内容は『助けられなくてごめん』とかで『さよならなんて言うなよ、ずっと好きだ。泣いたっていいんだ。お前が辛い思いしてるのに気づけないなんて彼氏失格だよな。』ってのが一番いい文だと思った。
留守番電話は教室に響いてみんなに聞こえたと思う。いい彼氏さんだよほんとに。
『何年たっても例え会えなくても俺はかずはをずっと愛してる。』
うわ。泣きそうなんだけど。だってこの彼氏さん泣きながらあんな事言うんだもん。
かずはさんの姿は段々綺麗な肌に戻って服のやぶけもなくなって顔を隠していた髪の毛も後ろに靡いて眉毛が隠れるくらいの8:2で分かれた前髪ができていた。
綺麗な黒い瞳には涙が一杯たまっていて彼女はきっと沢山の涙を堪えてやっと流しているんだろう。美人さんだなあ。
『俺な、やっぱ一生あいつらを許せそうにない。だけどお前は俺が人殺しになることなんか望んでないよな』
こくこくと電話に向かって首を縦に振る。悲しい顔で『幸せになって』と呟いたのをあたしは聞いた。
『この先、いろんなことがあって悩んだり憎んだりしちまうかもしれないけどお前のところにいけるように俺がんばるからな』
目を見開いたかずはさんは子供の様に泣きじゃくってあたしに抱きついた。『ごめんなさいっ。あなたじゃないのにっ、ごめんなさい』それはあたしを切った謝罪の言葉なのか浅黄に向けての言葉だったのかはよくわからない。
「かずはさん」
透き通るような綺麗な声で浅黄は呼び掛けて「私は貴女が最初、私を守ろうとしてくれていたってしってます」ニコッと微笑んで窓枠をよけて歩いてきた浅黄さんはかずはさんがあたしから離れてそっちに向き直ると「ありがとうございました」って頭を下げた。
「ど、ういうこと?」
「あなたが美夜ちゃんね。私はずっとあなたが彼女の携帯を見つけてくれるのを待ってたの」
「あたしは何もしてない」
「ふふっ。そう言うと思った」
花のように浅黄は儚くてそれでいてほんわかしている。現代人がよくわらかん。何でこんないい子を妬むんだよ。自分達を産んだ親を恨めよ。言ってやれよ、おかあさんとお父さんの顔がびみょーだからあたしがこんな顔なんだって、殴られるから。絶対怒られるか、諦められるから、それでも言えるんだったらそりゃもうしょうがないよ。あたしも同情するよ、うん。
笑う詐欺師を嗤う牧師
で、この和んだ雰囲気は一体なんなのさ。僕はまだ満足してないんだけど、勝手にこんなへんなとこ連れてこられて殺そうとしてきたりしたのに携帯が見つかったら僕等は用無しかい?そりゃ、あの彼氏の言葉はよかったよ。本とかにすれば売れるんじゃない?ってくらいの感動ものだったよ。
だけどこれで解決って腑に落ちないんだけど。
美夜とか血だらけなのにどうして普通に立ってられるのか不思議に思わないのかこいつらは。
僕だけなの気にしてるの?あの七不思議の変な現象だって別に鹿野かずはが指示してたわけでもないみたいだしさ。
「ねえ、君の言っていた守ってくれていたってどう言う意味なの」
「風紀委員長さん。…お願い聞いてくれてありがとう」
あれか、美夜を守ってやってくれってやつか。別に僕は何もしてないんだけどね。あの子は自分で戦ってたし。
「君が願う事でもなかったみたいだけどね」
「はい。どうやらそうだった見たい」
僕と伊藤浅黄の顔を交互に見て何の話しをしているのか理解できていない草食動物達は首を傾げていた。
鹿野かずはは、携帯を握りしめて彼女を見て申し訳なさそうな顔をしている。
「かずはさんは理科室から飛び降りた私の痛みを全て引き受けてくれたの。それからも階段から転んだりしてもかずはさんが私の体に入る感覚があると気づいたら痛みもなく保健室のベットの上で寝ていることが何度かあって…それで気づいたの。ああ、私の痛みを背負ってくれているんだって」
あまりにも伊藤が怪我をするから彼女の過去の記憶が蘇り恨みは増幅されて今に至ってしまったってことか。だから伊藤浅黄は彼女に体をのっとられたとしても怒らずにいるってわけだね。
―――ガターンッ
「「「「!!」」」」
突然建物が崩れるような音がして教室、学校自体が揺れ始めた。伊藤浅黄も鹿野かずはも動揺しているって事はこれはこの世界が暴走してるってことか。
取り合えず全員廊下に出ようとドアに向かって走ると窓ガラスが勢いよく割れて強風が入り机やいすも廊下側の壁に激突している。美夜はリボンのついた携帯を伊藤に渡して先に行くように命じていた。
やっぱりあの子は馬鹿すぎてムカつくよ。よたよたと歩く美夜のお腹に手を回し担ぎあげて教室を出る。耳元でぎゃーぎゃー騒ぐな。
「はなしんしゃい!重いから!最近お菓子食いまくって太ったから」
「ちょ、ほんとにうるさい。確かに重いね。だから大人しくしてなよ。余計に重くなる」
「デリカシーってもんがないよね!走るのはやっ!もうツナ達に追いついてる!」
「痛いの我慢して後からこようなんて考えていた馬鹿よりましでしょ。それと君達おそすぎ」
小動物に驚いた顔された。僕がこいつを担いでるのがそんなにおかしいのかい?山本武は何故か笑って「俵担ぎかっ!」って指さしてきた。それ僕に向けて指さしたんじゃないよね。この子に向かってだよね。
笹川京子達は「お姫様抱っこにしてあげればいいのにね」と女子の会話を繰り広げているし…
だから群れって嫌なんだよ。
「走るの遅ぇんじゃなくて何処に行けばいいかわかんねぇから策を練ってんだよ!」
―ガラガラッ
廊下が段々と崩れてきているのにそんな事考えてる場合じゃないだろうが。鹿野かずはによるとどうやら自分の恨みが薄れていってるから不の念でできているこの世界が崩壊し始めているらしい。
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