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:x 土の中で会いましょう



眼は髪で隠れてみえないけれどその頬を伝っているのは涙で唇を噛みしめているのは悔しいからなんでしょ。
あんたはとことんいい人だよ。彼氏さんを此処に呼ばないようにして汚れた現状を見せないようにしたんだよね。

京子と花は感動して泣いていた。2人は映画を見ているようだったかもしれないけどあたしは違うよ。だって彼女はあたしとそんなに離れていないし泣いている彼女が見えるんだもの。

『た、すけて』

携帯を落とした彼女は両手で今度は顔を覆い隠して「助けてっ」と掠れた声で言った。此処にはあたし達が居てその声が聞こえたけどあの時は自室で1人だったんだろう。あなたは凄いよ。よく堪えたね。


で、いましょう


目の前で起きていることがまるで映画の様に感じた。たぶん俺達が教室の前の方に居て後ろの席で起きている出来事を見ているからなんだと思う。鹿野かずはさんは強くて優しくてほんとにいい人だったんだ。
どうしようもなく彼女を傷つけたやつらが許せない。このやり場のない怒りはどうしたらいいんだっ。
きっと一番彼女の近くに居る美夜がどうしたらいいのかわからないんだろうな。
美夜の顔を見たらすぐに分かった。アレは怒っていると思ったら彼女の傍に寄り始めたから驚いた。俺が止めるために叫ぼうとした瞬間、彼女の雰囲気が変わって顔から両手を離した。



ゆっくりと立ち上がって行く鹿野さん

許さないっ!

さっきとは違う怒鳴り声で叫ぶと右手には包丁が握られていて美夜に斬りかかる。

『私から彼を奪った』

左腕が包丁を掠ったのに表情を歪めず致命傷を外して斬られていく美夜。ちゃんと避けないのはなんでだ?

『彼を、返してっ…』

怒鳴り声の様なのに凄く哀しいようにも聞こえる。なあ、何でよけないんだよ。お前が傷つく姿なんて誰も見たくないんだよ。

『返してよっ』

―ガっ

鈍い音がしてそれは雲雀さんが美夜に向かってトンファーを投げてヒットした音だ。え、当てる相手間違ってね?

「気に入らないね」

自分が傷めつけたいって事かよ。動けない俺達には投げることしかできないから仕方ないか。
だけどお構いなしに鹿野さんは包丁を握って振りかざす、けど今度はちゃんと避けてこっちに向かって笑っていた。俺はお前のその辛いのに笑う笑みがだいっきらいだ。

『許、さない!』

綺麗に包丁を交わしてその手を掴むと美夜は彼女を抱きしめた。

「許さなくていいよ」

どうしてお前は1人で何でもしようとするんだよ。

「あたしだって許せないもん」

お前理論か!だけど不思議と体が動けるようになった。いや、この状況であいつの傍にはいけないけど。なんか空気壊す気するじゃん。

『…彼を返してっ』

これで解決するのかと思ったらちがかったぐさって肉に刺さる音がして美夜の背中に包丁が刺さる。
くずれるように倒れていった美夜の傍に駆け寄ろうとした獄寺君に彼女はあいつの血がベッタリとついた刃物を向けた。

「…なんで終わらないんだよ」

「携帯を奪われたってことはそれを持ってる奴に復讐しようとしてるんじゃない?」

「じゃあ、電話に出た時に居た俺達全員があの女子だと思われてるってこと!?」

屁理屈だな!取り合えず獄寺くんが鹿野さんの相手をしてくれてる間にどうにかしなきゃ!倒れている美夜の傍に寄ろうとしたらあいつの姿はどこにもなくて倒れた場所に血がついていた。血の量が多くないって事は出血多量で死んじゃうって事はないよ、な。それよりあいつどこにいんだよ!あの怪我で動き回るとか馬鹿だろ!
雲雀さんは投げたトンファーを拾って鹿野さんに攻撃し始めた。これで獄寺くんも少しは楽になるだろう。

―――♪

これはあの携帯の着信音だよな。窓側の後ろの席に目を向けたがリボンのついた携帯が鳴っているわけではない。ドアの前に彼女が置いていた携帯は無くなってて…じゃあ、この音楽はどこからながれているんだ?

―――――♪

今まで獄寺君達を襲っていた鹿野さんはきょろきょろとあたりをみわたし音楽が聞こえる場所に駆けだす。
え、俺ん所に向かってない?ないからね!こっちにはないから来ないでくれよ!こないでってばあああ!

「うわあっ」

突然ズボンを後ろから思いっきり引っ張られて窓側の一番後ろの机とその前の席の間に隠れる形で倒れた。しりもちついたっ!けつ痛いよ!誰だよ引っ張ったの!振り向くと犯人は美夜で右手には自分の携帯を握っていた。画面は電話の発信画面で相手先は書いてない。もしかして鹿野さんの携帯に電話かけてんのかこいつ!

俺達を通り過ぎて窓を勢いよく開けた彼女はベランダに飛び出す。一体どこに携帯はあるんだ?美夜が携帯を持ってない方の手で肩を押さえて立ち上がるから俺もそれにつづいて立つ。「めちゃくちゃ痛いんだけど。これ、死んじゃうんじゃね?」って聞かれても「そうなんじゃね」としか言えないよ。だいじょうぶとかそんなん言わない。だって抱きついたお前が悪いんじゃん。ちゃんと避けないからそうなったんだ馬鹿。

―――――――♪

カランっと音がしてコンクリートに刃物が落ちる。鹿野さんを見るとベランダの植木鉢をどかしてビニール袋に入っていた彼女自身の携帯を取りだすと両手で大事そうに持っていた。
こっちを向いてと声を上げて泣く彼女は一体どうしたんだ?嬉し泣きではないよね?泣く彼女はまるで幽体離脱でもするように茶髪のウエーブがかかった女性から出て壁を抜け教室に入った。
え、ベランダに立っている女の子って伊藤浅黄さんだよね?めっちゃ可愛いじゃんか!写真なんかより実物のがいいね!て、あいつもきっと同じこと考えてんだろうな。

 




あきゅろす。
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