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:9 穢れなき愛に触れる




容子が美人だからと苛められた鹿野かずはさん。容子が可愛いからって苛められた伊藤浅黄さん。2人とも何も悪い事はしてないしそれとは逆に2人とも優しくていい人だったらしいのに…
酷過ぎる。こんな事が並中であったなんて信じられない。それは風紀院長さんのおかげなのかな?
美夜ちゃんは打倒風紀委員を目指してるけどなんだかこんな事があったなんて知ったら応援できなくなっちゃった。ごめんね美夜ちゃん。

「京子?」

「あ、ごめんね!ぼーっとしてた」

「もー警戒しとかなきゃだめよっ!いつ、なにが起こるかわかんないんだから」

「うん」

花も優しい。血の中に引きずりこまれそうな花を私はただ見てるだけしかできなかったのに怒りも責めもしないで心配してくれてる。私はあの時怖くて何もできなかったのに…
確かにツナ君に「くるな!」って言われたけど行く事はできたし花と一緒に沈むって選択もあった筈だけど私はただ見ていて誰か助けが来るのを期待してた。最低だっ。美夜ちゃんがもしも来なかったら花は死んでたかもしれない…そう考えると震えが止まらなかった。

「殺されたとしか考えられないよね」

「!」

美夜ちゃんが発した言葉に反応してしまった。自分に言われてるわけじゃないのにあの時の事を考えると見殺しになってたって思っちゃう。

「その彼氏と合われる前に携帯を奪って殺せば連絡をとられる事もないし。日記を盗んじゃえば自分達が苛めてたって証拠もなくなるじゃん。元々人どおりが少ない場所で両親も留守にしてたのなら反抗は可能。さらにその子達が物には何もせず苛めて居る所を誰にも見られてなかったら体の傷だけを見て家庭内暴力か犯されたから自殺したとみられるだろうしね。」

しーんとなって全員で美夜ちゃんを見る。

「お前どっかの犯罪者?」

「美夜がまともな事言ってるのな」

「君もしかして取り付かれてんの?」

「風邪でも引いたんじゃねーのか?」

ツナ君達は美夜ちゃんの事褒めてるのかな?うーん。ほめてるんだよね!

「美夜ちゃん探偵みたいでかっこいい!」

「あんたの脳内でよくそこまでまとめたわね」

あれ?なんか美夜ちゃん苦笑いで涙目になってる。どうしたのかな?嬉し泣きだよね。

「そうと分かったら取り合えず伊藤さんから離れさせねーとな!」

「野球馬鹿が言わなくても10代目はやろうとしてたっつーの!」

「え!?俺!?」













「んじゃ、まず携帯で呼びだしてみっか?」

野球馬鹿がそう言って皆が顔を確認し合い誰が携帯を持ってるのか合図しあう。
寧ろ呼びだした後どうすんだ?根本的な解決方法は何もわかっちゃいねーじゃねーか。

「あれ。なくなってる」

一斉に美夜の方を向いてまた黙り込む。ポケットの中に手を突っ込んで何か取り出したと思ったらお前の携帯かよ!どうでもいいだろーがっ!

「こん中だから落ちるわけないんだよな」

焦った様子もなくきょろきょろあたりを見渡す美夜をぶっ飛ばす準備をしている10代目と雲雀に黒川。山本と笹川は「携帯ってよくなくしちゃうもん」な」と呑気な事言ってるしよ。

―――♪

上の階から聞こえるこの着信音はリボンのついた携帯のもんだ。この上って事は3年の教室…って俺があの携帯を拾ったとこじゃねぇか!

「もしかしてあの血だまりに入った時に盗られたんじゃないの?」

「花ちゃん持ち主に戻ったんだよ」

「おい。持ち主に戻った筈なのに着信音止まらないのは何でだよ」

「それはツナ…電話でるのって勇気いるから心の整理してんじゃね?」

「なっとくできちゃう自分が嫌だ」

落ち込まないで下さい10代目!…俺もそうですから!いや、滅多にないですけど、たまに?そんなときありますから!

「止まないって事は呼んでるみたいだね」

スタスタと階段の方へ向かう雲雀の後を「しゃーねぇな」と言ってついてく山本。黒川と笹川も2人で手を繋いで後を追う。10代目と美夜は元から2人で口論し合いながら先に階段の方へ歩いてるし俺だけか気のりしないのは。罠って感じすんだよな。
…そん時は俺が10代目をお守りしなければっ!

止まない着信音

階段や廊下では何も起きなかった。自分達の足音とあたしとツナが話す声が響いてるくらいだ。携帯の音が聞こえる教室の中に入ると窓側の一番後ろの席に携帯が置いてあって未だに着信音は切れないで流れている。

またもや誰がその携帯をとりに行くかで顔を見合わせあっているのでめんどうだから取りに行った。みんなして止める癖にその場から動かない。言ってることとやってることがおかしいぞっ!

携帯を持ってから気づいたんだがなんかみんな止めるの必死すぎないか?雲雀は黙ってこっちむいてるんだけど無言の圧力って言うの?え?眼からビーム的なの出せそうな感じで見てるんだけど。

「もしかしてみんな動けないの?」

小首をかしげて冗談半分で行ったら「そうだ馬鹿!」「気づくのおせえんだよ馬鹿!」「馬鹿でしょ」と馬鹿を連呼された。泣いていい?

―ガチャッ

勝手に持っていた携帯が開いて通話する事になった。
電話相手は【鹿野かずは】と画面に出ている。あたし等が真実を知ったから浅黄の名前を使うのをやめたのかな?

『―あ…たい』

教室中に聞こえる音量の携帯電話からは悲鳴に似たような声だ。

『早く、会いたいっ』

電話相手だけに聞こえる様に話しているようで、たぶん彼女が殺される間際に彼氏さんに電話した時のなんだろう。

『どこにいるの?』

涙声で話す彼女のそのうち声はあたしの後ろから聞こえるようになって振り返ると教室のドアの前に携帯耳に添えて泣きながら電話する黒髪の女性が居た。かずはだ。

『ねえ、この留守電聞いたらもうさよなだらだね』

留守番電話?って事は彼は電話に出られなかったのか。だから、一方的に彼女が話しかける形になってるんだ。

『今までありがとう。一杯迷惑かけてごめんね。好きになってくれてありがとう。私ね、今までのずっと我慢できたけど会えなくなるのは我慢できないから泣いちゃってごめんね。ごめんね』

電話に向かって謝り続けた彼女は『用事ができちゃったから家には入れないの。だから帰って。来ちゃだめだよ!』そう言ったと同時に電話越しから玄関を開ける声と下品な女子生徒の笑い声が聞こえた。

『ごめんね。ごめんなさいっ』

何に対して謝ってるんだよ。君が謝る必要なんかないじゃないか!電話の後ろから聞こえてくる下品な声の誰かが「鍵盗んどいてよかった」って言った。そこらへんからあたしは携帯を持つ気が失せて机にほっぽった。ドアの前に立って身を縮めて唇を噛みしめて沢山謝ってから電話を切った彼女を見る。

携帯を両手で握りしめて彼女はしゃがみこんだ。





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