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:] 食べられた子羊




音楽室に響くピアノの音色はどこか寂しげだ。いや、此処で楽しそうな音楽を弾かれても反応に困るが感情を揺さぶるようなこの音楽がどうも気持ち悪い。
不快感を持ったのは僕だけじゃなくて山本武もそうならしく眉間にしわをよせていた。
獄寺隼人は美夜にピアノを弾くように言われ嫌々ながら(無理やり)そこに座っているかもわからない奴の隣の椅子に腰を下ろしてピアノを弾き始めた。
こいつを褒めるはいやだが上手い。
よくもまあ、途中からなのに此処まであわせられたものだ。聞いたことがあるんだろうか?
なんでもいいから早くこの曲を終わらせてほしい。
草食動物の音も加わって完璧になった曲はさらに耳から入り心をかき乱そうとされる気分で最悪だ。

「なんかこの曲やばい気がするな」

「…もしも曲を完成させなかったらどうなるの?」

「確か狂ったようにこの歌を口走って精神科行きだったと思うぜ」

「ふーん。誰かが作った噂にしてはよくできてるね」

音が高くなり耳にさらに響く。美夜は獄寺隼人の傍でつったってるがあんなに近くに居て平気なのだろうか?頭おかしいから気にしないだろうけど…
傍に寄って様子を見ていたが変だ。こいつのことだから顔をわざわざ見に来た僕をおちょくるか頭突きするはずなのにそれをせず無表情のままぼけーっと虚ろな瞳でいる。無表情なのはいつものことだがこんな感情のない眼を見たのは初めてだ。

「…え、ないの…」

ぶつぶつと何か言ってるが声が小さすぎてさっぱりわからない。まさか霊にとりつかれたのか?…こんな馬鹿にとりついたところでいいことなんてひとつもないだろう。それに伊藤浅黄が美夜にそんなことさせないだろうからね。彼女はこんなことがしたいんじゃないはずだ。伊藤の中に入り彼女を殺して僕たちをも殺そうとしている何者かが誰なのか分からなければこの変な空間からはでられないだろう。

「もう、あえないの?」

美夜がはっきりとそう呟いたと同時に彼女の声も聞こえ、あたりを見渡すが姿はなかった。だが、気配はある。かくれんぼって大きらいだよ。鬼ごっこ(鬼ポジション)はいいけどね。
虚ろな瞳のままふらっと倒れそうになる美夜を受け止める。額には汗が浮いていてワイシャッもびっしょりとぬれている。女の子がこれでいいのか、とかそんなのは言っていられない。
どうも呼吸が荒くておかしい。なんかエロいな。僕がこいつに欲情することはありえないけど誰がみてもそう思うに違いないだろう。
手を握ってみたが凄く冷たかった。このままじゃ本当にこの子死んじゃうんじゃないの?
美夜のおでこに手を当てた山本は慌てて音楽室を出ようとしたが何かを思いだしたらしく戻ってきて落ち着かない様子で僕に支えられている彼女を見ていた。
保健室になにかあるのか?
…そう言えばパソコン室で見た映像のなかに保健室もあった気がする。美夜達が保健室に逃げこんだとしたら行けないのは確かだ。まったくこの子は本当にめんどくさいね。










―…ポロン

気の抜けるピアノの音がしたと同時に獄寺が急いでかけよってきた。どうやら伴奏は終わったらしい。

「どうしたんだ!?」

「君達近いんだけど。寄らないでよ」

「だああっ!誰もお前に寄ってねえよ!」

「君達じゃ慌てすぎて彼女を預けても何もできないでしょ」

「………っ!」

無言で拳を握りしめる彼はどうやら話が通じたみたいだ。山本の方はわかっていたらしくある程度の距離をとって静かに見ていた。どうやら彼はなんだかんだいいながら彼女が大事ならしい。

「は…へった」

「ん?なに?」

「腹減っ、た」

…―どさっ

「「おい!」」

うん。この子完璧に腹減ったっていったよね。僕がとった行動は当然だよね。なにしたって?倒れかけていた彼女の側から離れたんだ。勿論、彼女は床に倒れたさ。
どうやら意識が戻ったらしく仰向けに寝っ転がって僕の方を向いてにやっと笑った後に顔に腕をあて「や、られた」っと小さく怒りをこめて呟いていた。

「大丈夫なのか!?」

「汗びっしょりじゃねえか!これ着とけっ!」

彼等にはどうやら美夜の呟きが聞こえなかったようだ。獄寺は美夜を無理矢理立たせて準備室で着替えるように怒鳴っていた。頬を染めてワイシャッを脱ぎそれを押し付けてドアを勢いよくしめた。

汗で下着が透けて見えていたくらいで何をそんなに動揺しているんだか。山本を見なよ。笑顔で「黒に白いリボンなんだな」って変態発言してるよ。これくらい落ち着けとは言わないけど君も、もう少し冷静になったほうがいい。
それより腹減ったってなんだ。
取りつかれないように踏ん張るのにそんなにエネルギーを使うのか。せめて、女の子らしく助かったって最初に言えばいいのに。
ま、彼女に女の子らしさを求めても無駄なんだけどね。

「ティシャツ着ててよかったのな」

「ほんとだぜ」

「上半身裸で並中を歩くんだったら咬み殺すとこだったよ」

「着てなかったらかさねぇよ!」

例え此処がほんとの並中じゃなくても僕の目の前で風紀を乱すのは許さないよ。






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