あれ?何かがおかしい… 肩に掛かるくらいの髪で栗色だって?誰だそれは…俺達を追い掛けているのは黒い長髪の伊藤浅黄さんな筈なのに… まさかイメチェンしたとか?だったら黒から栗色にするはずだろ。彼(人体模型)が恋い焦がれているのは…別の人? 『誰も彼女を救えない』 そう言われても困るんだけどな… 拳を握りしめたらしく左腕の筋肉が妙に太くなった。これは慣れない!人間の作りだとしても生で見る程気持ち悪いものはない!いや、中には死体をコレクションにしてる人もいるから何とも言えないけど。 「救える、救えないの問題じゃなくてあんたがただ何もしなかっただけじゃないの?」 『!』「!」 黒川ぁあ!お前俺が一番こいつに近いんだからなぁ!人体模型、俺、黒川、京子ちゃんの順で一番危ないの俺だから!怒らすなよ!怒ってるよね?人体模型怒ってるよ!唇噛みしめてるもん!筋肉ムッキムッキになってるし!左側恐ろしい事になってるよ!右側だけ見れば「あ、怒ってる」て感じなのに! 『何がわかるっ!』 理性がぶっ飛んで充血した眼をかっ開いたと同時に今まで体を縛りつけていた金縛りが溶けた。襲い掛かってきた手をしゃがんで避けて黒川達は椅子に足を掛け机に飛び乗り距離を置いた。結局俺が逃げ遅れてしゃがんだまま蹴ってきた足を避ける。 どうにか振り切れば今度は怒りを黒川達の方にかえていた。ま、怒らしたのは黒川なんだけどね。 『止めようとしてもこの体は動かないんだ!ただ、あの部屋で彼女が来るのを待つことしかできなかった!』 京子ちゃんと黒川は途中別かれて逃げたらしく人体模型は黒川を追い掛けていた。半泣きになって必死に逃げる黒川はまるで鬼ごっこをしていて鬼から逃げているようだ。理科室を走り回る1人と人形。人体模型の手が肩に触れる所で黒川は机に飛び乗りまた距離を保つ。黒川やっぱすげぇ… 「あんた七不思議じゃ夜に学校歩き回ってるらしいじゃないの!だったらその勢いで会いにいけばよかったじゃない!」 『うるさい!』 凄い…逃げながらも喋っている黒川ほんと凄い!そう言えば並盛の七不思議にそんなのあったな… ―キーンコーンカーンコーン 『これから、放課後の校内放送を』―…ぶちッ え、何でチャイム!?どうして途中で切れた!?もしかしてさっきの放送がもう一つの七不思議のやつだったり!?じゃああの放送を切ったのは山本達か雲雀さん!?取り敢えず皆生きてるんだ… 放送の方に気を取られていた制で人体模型が傍に来ている事に気づけなかった。黒川が避けた人体模型の手を避けようとしたが間に合わず髪をガシリと掴まれた。 ――…なんだこれ… 廊下?何で此処に?確か理科室に居たはずなのに… 「おーいっ」 後ろから誰かに呼ばれ振り返るとそこには見慣れた幼馴染が居た。美夜は特に笑いもせず、怒っているわけでもない。だけど俺には分かる、あいつは確かに楽しいと思っている。 「そんな驚かないでよ。学校を徘徊してる人体模型を発見しちゃったこっちの方が驚いてるんだから」 は?人体…模型? 「ま、偶然じゃないんだよね。七不思議を辿ってただけだから」 何言ってんだこいつ…どうして平然と近づいてこれるんだよ! 『僕が…恐くないの?』 勝手に口が開いた。声が自分のものではない… じゃあ、俺は?なんだ? 「暇つぶしに来たんだ。だから怖いとかないよ。大体、何であたしが君を怖がらないとならないんだい?」 お前だけだよ!動く人体模型見て怖がらないのは! 「あー。でも、七不思議の中で君だけは本当の事だって思ってたからもあるかなぁ。準備室で人が出入りする度に目が少し動いてたから。」 『…僕を壊すのかい?』 「まさか!そんな呪われそうなことしないよ。だけど、風紀委員には気を付けた方がいいよ。バレたらバラバラにされちゃうからね」 『いっそ壊された方が…いいのかも、しれないな』 こいつは何を言っているんだ。壊された方が?もしかして美夜が話しているのは本当にあの人体模型なのか? 「ねぇ、君が何をしたいのかなんて知らないけどさ。待ってるだけじゃ何にもなんないよ」 眼を細めて何かを見据えているように美夜は話す。こーゆう時はイラついているんだ。 「あんたが本当に怖いのは自分自身でしょ」 なんだ、急に動き出した!?走る。走ってどこかに、向かって…― ―…「うわああああっ!!」 まるで長い夢を見たようだった。気付いたら人体模型の手を振り払って逃げきっていた。人体模型はまた黒川を追いかけている。 「はぁ、はぁっ…」 冷や汗でシャツはビショビショだ… あれは、人体模型の過去?じゃあ、美夜は一度こいつと会ってるのか!?暇つぶし…て…あいつが変に行動するのはもしかして…っ。 今は関係ないか…人体模型に目を戻すと京子ちゃんの方に突進していた。あ、ぶない!走りだすもこの距離じゃ間に合わない。 終 わ り そ う に な い 劣 情 こっちに来る!恐くて目を瞑った。涙が出そうになるのを必死にこらえた。だってツナ君や花は戦ったのに私は逃げる事しかしてない。泣いちゃだめ、私にもなにかできるはず…何か、 「きゃあああああっ!」 腰が抜けて逃げ出そうにも動けないまま、人体模型の手が伸びてきた。 ―ガっチャ―ン バラバラと壊れる音と。突き飛ばした感覚のある手をを交互に見る。私が、私が壊した。ちょっと押しただけなのに…意図も簡単に壊れていったの。 「そ、んなっ」 我慢していたけどポロポロと涙が出てきた。その場にしゃがみこんで必死に人の臓器の形をしたパーツを集める。押した瞬間流れ込んで来た人体模型の記憶は人間そのものだった。守りたい、けど守れない。力がない、人間でない自分があってしまったら嫌われてしまうんじゃないかと言う恐怖、私も同じだよ。 なんの力もないから守りたいのに守れない、何かしようにもそれこそ迷惑になってしまうのが嫌で逃げてる。 「京子ちゃん大丈夫!?」 「私、なんかより人形がっ」 もう、怖いとかはなかった、ずっと前に美夜ちゃんが私に言っていた「人体模型はさ、人間ではないけれど一番人間らしいと思う」ってそれは多分、美夜ちゃんが七不思議を調べたときに彼にあったからだ。動くのを黙っていたのはそんなのが知れたら処分されてしまうからで、今まで彼女はそんな彼の事を守るために夜の学校に来ていたんだっ… それなのに私は美夜ちゃんが守ってきたものを…っ 「美夜が夜の学校に来てたのは彼に会うためだけじゃない」 「えっ?」 「もっと、違う理由もあったんだと思う」 私と同じ高さになってツナ君は人体模型の部品を集める私の手に自分の手を重ねた。 花も私の傍に居て頭を豪快に撫でた。どうして皆…こんなに強くてあったかいんだろ。 |