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:- 純粋な愛を喰らう




―ガタっ

無言のまま音のした準備室に顔を向ける。京子の手を握りこれから起こる事の予想をして逃げ道を探す。

―ガタガタッ…ギィ

微かに準備室のドアが開いた。隙間から誰かがこっちを見ている。暗くて見えないけれど、確かに誰かがこっちを見ている!気持ち悪い…一体なに?

沢田がいつの間にか傍に来ていて私達の前に立つ。こいつこんなに男らしかったけ?あ、でも足震えてる…駄目よ京子。足は見ちゃダメ。それと顔も覗きこまないの。絶対涙目で鼻水出てるから!あんたは後ろでかっこいい!て言っててあげなさい。

「黒川…」

「なによ」

「…何でもないです」

純粋な愛を喰らう

黒川さん。俺ね超直感てものがあるから嫌でも黒川さんの心の声が聞こえちゃうんだよね。確かに足震えてるけどこれはさっき全速力で2人を追い掛けてきたから神経が麻痺ってるだけで、涙目とかは黒川の小さな優しさで精神的ダメージを食らったせいかな!

―ギィイッ

ゆっくりと開くドア。古い制で開く時に音がなる…それがよりいっそう恐怖を煽る。
やっぱ理科室だもんね。此処はあれしかいなよ…
宿題忘れて理科室片付けさせられたけどアレはやっぱり怖かったな。ただあるだけで恐かったのにそれが動いてたりしたら…やばい。気絶するかもしれない…

「!」

「定番ね」「こっち見てる!」

定番だよ。そうだよ!人体模型!ギギッて変な音してるし!そんな無理して歩かなくていいよ!左側はちゃんとした人間なのに右側は臓器がリアルに出来ていてる。誰だこんなの考えたのぉお!せめて左側も皮膚がくっつく様にしろよ!

『欲、しいっ』

瞬きもする事なくこっちをじーっと見ながら近づいてくる人体模型。恨めしいという眼差しで黒く妙にリアリティーのある瞳は目を逸らすことはない。

『な…りたい』

右側は普通の人間が話している様に見えるのに左側は筋肉やら歯茎が見えゾンビの様にも見える。逃げようにも今回は何故か足が動かないのだ。黒川と京子ちゃんもそうならしく手をより一層強く繋いでいた。
動くのは首と目と口…これが金縛りか…初めてなった…
て、感心してる場合じゃないんだよ!どうにかしろ俺!こんな時こそ死気で戦うんだ!でも、まぢで死んじゃったら洒落にならないよ!

「きょ、京子…これきっと罰が来たんだわ。私、何度か準備室入ったけどその度に気持ち悪いて言ったから」

黒川ぁあ!人の事言えないけど流石に俺は口に出さなかったよ!?なんか言ったら動きだしそうだったからさ!今は本当に動き出してるけど!

「は、花だけじゃないよ!私も見た時怖くて、気味悪かったから掃除の時とかアレは避けてたのッ!」

京子ちゃぁあん!そりゃ俺の天使でも怖いものはあるよね!だけどそんな地味な嫌がらせ的な事しちゃったのぉ!京子ちゃんそんな事されたら俺たぶん死ぬ…のは嫌だから鬱になるよ!

「うわぁっ!こっち来てるぅ!」

「沢田!どうにかして!」

「そんなぁ(どっちも怖ぇ)!」

無茶だよ!こんなのどうしろっつーんだ!ぎゃあああ!近い!近い!俺の身長ぐらいの距離ぃ!あ、俺身長低いからかなり近いてことだから。…じゃねぇ!なんか自滅した気分だ…

『人間にっ』

「手がぁああ」

どうして左腕!?せめて右腕にしてください!皮膚ない!筋肉怖い!今度からちゃんと理科の授業受けるから!絶対宿題忘れません!人体模型使う授業があったとしても眼そらしませんから!殺さないでぇええ!

『人間になりたいっ』

伸びてきた左腕は俺の頬にそっと触れた。その手は冷たくて、やっぱり人形のものだった。だけど人体模型の言った言葉は…まるで人間が「あの子になりたい」と言うようなものに消えた。

『人間になりたい、なって、あの子と一緒に、居たいっ』

あの子?もしかして人体模型は恋をしているとか?…そんなまさか!だけど、人体模型が俺を見る目は羨ましい妬ましいといったものだ。それと、人間でない自分が憎いようでもある。

「ツナ君!」

京子ちゃんが俺の心配をしてくれている。人体模型はその声を聞いてシュンとした様子で頬から俺の左胸に手を置いた。心臓の上に重なる。自分でも分かるくらいに脈をうっている。ドックン、ドックンとこんな静かな空間では音が聞こえてしまうんじゃないかって程だ。

『僕の心臓は動かない』

「…あの子て誰なの」

黒川が口を開いた。あ、俺の心配じゃないんだとかは置いといて俺も「あの子」の事が凄く気になっていた。きっと、聞いても一方的に向こうが話すだけだと思い言わなかったけど。

『…肩に掛る髪に栗毛であそこに閉じ込められたんだ』

意外にも返事が返ってきた。あそこといいながら準備質を指さす。だからなんでそれが右腕で俺の胸に手をあてているのが左腕なんだよ!逆にしろ逆に。

「ずっとそこに?」

『まる1日』

「その間何をしていたの?」

『僕に沢山話しかけてくれたんだ。僕は、答える事はできなかったけ、ど』

「誰かがドアを開けてくれて出られたの?」

『最終的に彼女は窓から飛び降りた』

「…死んで、しまったの?」

黒川はうろたえながらも一つ一つ聞いて行った。俺いつまで触られないとならないんだ?もしかしてこのまま心臓を抉りだされたりするとか?お願いです。黒川さん!どうか彼を怒らせないで下さい!

『辛うじて生きていた。下の芝生が彼女を守ったんだ』

体から手が離れた。黒川と人体模型が話している間に俺の心臓も通常の心拍に戻った。




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