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熱だけ残していかないで 雲雀




黒の短い髪の毛に凛々しい背中。私はその後ろ姿をずっと追ってきた。追っていたつもりはないが雲雀恭弥は私に前を歩かせてはくれなかったのだ。

彼とは別に恋仲ではない。かといって友人て訳でもない。つまりは友達以上恋人未満の関係なのだ。
私は彼氏を作るつもりもないのでその関係が楽でこのままでいいと思っている。寧ろあの最強で凄くプライドの高い彼を恋愛対象として見た事がない。雲雀が群れを咬み殺している所なんか見たら好きとかそんなの言ってられない。よし、救急車呼んで逃げようって感じだ。例えキュンときてもこの行動をされたら冷めるだろう。

そんな彼に恋人ができたって話はまったく聞かない。結構綺麗な女の人に擦り寄られてる気がするけどなあ。どうやら彼も恋人を作る気はないらしい。


婚期を逃すのは何だか嫌だなと思ってた頃にツナからあるファミリーの息子が私に求婚をせまって来てるんだと知らされた。つまりは組織の若頭にあたる人に好かれてしまったんだ。ツナは無理強いをさせたりはしない。だって彼は強くて優しくてそして人の辛い顔を見るのが嫌な心の弱い人だからだ。もしも私が断ったらそのファミリーとはうまくやってけないだろう。中々の勢力があるファミリーだから面倒な事になるに決まってる。皆に迷惑かけたくないし私だってそろそろ結婚しなくちゃいけない年頃なんだ。丁度いいじゃないか。私は3日後ツナに笑顔で了承した。あの時のツナの顔はなんとも気が抜けたなよい顔だったな。
決断した答えを言い終えて部屋に戻ると吐き気におそわれた。イライラして花瓶やら本を投げまくったりもして部屋を散らかしまくってたらノックもせずに雲雀が部屋に入ってきた。

「ワォ。なにこれ」

「私の部屋だけど何?」

「襲撃でもされたのかい?」

「まあね」

本当は何で部屋が散らかってるのか知ってるのにはぐらかす雲雀が大人に見えてしょうがない。あ、大人だったっけ。子供みたいなことばっか言ってるから成長してないんだと思ってたよ。なんて皮肉な言葉を頭に思い浮かべながら次に投げようとしていた写真立てを棚の上に置きなおす。

「結婚するんだってね」

「…ツナから聞いたのか」

「まあね。君なら断ると思ってたよ」

そりゃ、向こうのファミリーも大きいから既に情報が広まって明日には皆が私の部屋に「おめでとう!」って笑顔でお菓子とか花とか持って来てくれるんだろうな。まったくおめでたくないよ。

「別に断ってもよかったんだけどさ、これを逃したらもう結婚できそうにないし。こんな私を好きだって思ってくれてるんだったらそれはそれで嬉しい、筈だし」

あれ?何かまるで自分に言い聞かせてるみたいじゃん。雲雀の長くて白くて綺麗な手が私の頭の上にのった。わしゃわしゃと強引な撫で方は昔と変わらない。でも、私は雲雀にこうされるのが好きで安心できるんだ。

「じゃあ、君は一生結婚なんかできないよ」

どーゆう意味だそれ。既に婚約者がいる人に言う台詞か?雲雀の顔を見ると今までに見た事のない穏やかな顔をしていた。うわ、なんだよそれ。雲雀ならくだらない意地や他人の為に自分を売るなんて馬鹿じゃないのって怒ると思ってたのに!そんな、そんな優しい顔しないでよ。

雲雀が部屋から出ていった後、沢山泣いた気がする。我慢してた自分偉いよ。どうして泣いてるのか分からないけど涙がとまらなかったんだよ。

ばか見たい。ボンゴレの為とか理由つけて婚約了承して。相手わかんないし。覚えてないし。確かに向こうのファミリーは強いからボンゴレ全体に迷惑かけちゃうけどそれでも嫌だって言えばツナはそれを受け入れてくれたのに傷つく姿とか自分の所為だって思いつめたくないから逃げてさ。気持ち悪いよ。これから知らない人と一緒に生活していってやることやって子供作ってお母さんになるんでしょ。ほんと吐き気がする。だったら結婚式が終わったら殺してやる。一緒のベットで寝るとかほんと無理。その時点で額打ち抜いて通気口作ってやる。

そんな覚悟を決めた次の日に雲雀が血だらけで屋敷に帰ってきて集中治療室で治療を受けることになった。
何で雲雀がボロボロなんだよ。確か今日って任務ない日じゃなかったっけ?仕事オフの日にこの人何で怪我してんの?事故?車に轢かれたの?だったら轢き返してこなきゃ。

「雲雀さん…たった1人であのファミリーに殴りこみに行ったんだ」

あのファミリーって、私と結婚する知らない人がいるところ?何で?ツナが雲雀を珍しく尊敬するように見ていたからなんかあるの?どうして私に謝るの?私はツナに謝られるようなことされてないよ。

「きっと名前ちゃんが本当は結婚したくないってわかってたんだ」

だからこんな怪我するってわかってて1人じゃ勝ち目のないような戦場に足を踏み入れたの?いや、結果的にはファミリー潰して勝って帰ってきてるんだけど雲雀が眼を覚まさないんじゃ私は喜べないよ。
雲雀は私が一生結婚できないって言ったのはこーゆう意味か。確かに婚約者死んだし好きな雲雀は眼を覚まさないしでほんとうに一生無理かもしれない。
どーすんのよ。こんな事されちゃったから本当に雲雀に惚れちゃったよ。どんなに群れを惨殺に咬み殺してる雲雀を見ても嫌いになれそうにないよ。
愛しちゃったよ。愛してるよ。

あれだけ泣いたのにまた涙が出てきた。どんだけ泣くんだよ自分。泣かせないでよ。


干からびちゃいそうだよ。


窓ガラス越しから今だ眼を覚まさない雲雀をずっと見続けた。呼吸器具なんてつけて雲雀らしくないぞ。医者も後は眼を覚ますだけって言ってたんだから早く目を開けろ。ねえ、お願いだから開けてよ。




(眼を開けて一番最初に)
(見たのが惚れた女の一番)
(見たくない哀しい泣き顔)

(君を傷つけない為に選んだ選択が君を一番傷つけた)






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