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哀しみの忘却 ツナ




遠いとこまで逃げた。
ツナの眼が届かないところまで走り続けた。
我子と共に。手助けしてくれたのはリボーン君。
意外だったなぁ。

ツナが好きで、両思いになったつもりで結婚して子供を産んだ。
例えツナが家に帰ってこなくてもそれは仕事上仕方ない事だとあきらめていた。
1人でこの子を育て上げた。今年で5歳になるんだよね。私の腕の中で震える息子を優しく抱きしめる。

マフィアのボスであるツナが…
優しいあの人が本当に愛している人を正妻にするはずないんだ。
どうして気がつかなかったんだろう。
ツナが最初から最後まで愛しているのは京子さんなのに。知っていたはずなのに、信じたかった。

あの温かい笑みも、優しく抱きしめてくれたのも、「あいしてる」と言う言葉も全部ボンゴレの為…
仲間や京子さんを守るためのものだったんだよね。
後継者がいないとボンゴレは潰れちゃうから私を利用したのか…
殺しの代を引き継がせるのに愛息子は選べないから?

…だから愛してない私を選んだの?
だめっ。絶対この子はツナになんかに渡さない!
ボンゴレの跡継ぎになんか絶対にさせないんだからっ。

そう決心したけど結局ツナにその考えはバレていて中々逃げ出せなかった。
最愛なる息子とも離れ離れにされて気が狂いそうだったわ。
ツナの嘘の笑みも、言葉も吐き気がするくらい。

「名前は過保護すぎるからちょっと子離れした方がいいよ」

そんなの私とあの子をひきはがす口実。笑っている癖に冷たい眼差しで私を押さえつける。
やっと部屋から抜け出せてあの子の元へ行くと笑みや希望をなくした表情の息子が狭い部屋でお絵かきをしていた。その絵は家族3人が泣いていた。

こんな所にいたら殺させる。ツナの傍に居たらこの子は死んでしまう。私が守るからね。命に代えても守るから。

屋敷を抜け出すには守護者や部下の人達に合わないようにしなければならない。部下はどうにかできるが守護者には勝てないだろう。慎重に屋敷の中を抜けていく。途中会った部下の方々には消えていただいた。別に何もできないわけじゃない。私だって裏社会で生きる者なんだから殺しなんて容易いものだ。この子の為に今までやらなかっただけ。いい母親でいたかったなぁ。

やっとの事で庭までたどり着いて敷地内を出られると思ったらリボーン君が仁王立ちで待ちかまえていた。
すぐさま銃を構えて引き金を引こうとしたら静止の声が掛った。

「俺がお前を逃がしてやる」

ツナの唾が掛った人間を信じたわけじゃないけど、この人が本当は誰よりも情があることを私は知っている。それだけじゃない。私を妹の様に大切にしてくれた人だから信じるんだ。ツナが「好き」と私に言う度にリボーン君は哀しい顔をしていた。私はそれを知っていて見て見ぬ振りをしていたんだ。

「辛い思いをさせて悪かったな」

「リボーン君の制じゃない」

「…俺はお前が好きだったぞ」

「私もリボーン君の事好きだよ。だけど一番はこの子」

「そうか。」

また、悲しい顔をして私を見るのね。ボンゴレが手出しできないルートと電話番号が書いてある紙をくれたリボーン君はパスポートも私にくれた。
この人はどうしてこうも大人なんだろう。
家庭教師なだけに弟子の失態をも包みこむのね。

「こんな事してリボーン君は大丈夫なの?」

「あいつは俺には逆らえない。それにツナがお前を殺そうとしたら俺はあいつを躊躇なく撃つ気だったしな」

「どうしてそこまで私に優しくしてくれるの?」

「あのなぁ、好きだって言っただろ。それにマフィアってーのは女に優しくするもんだ。特に自分を好いてくれた女にわな」

「リボーン君らしい」

どうしして私はこの人を好きにならなかったんだろう。あんな甘い言葉に唆されて本当に馬鹿な女。

リボーン君がくれたメモ通り行ったら無事に空港までたどり着けた。あとはこの子と一緒にこの国を離れれば…そしたらやっと安心できる。

幼い子供の手をぎゅっと握りしめて笑みを向ける。
私がツナに奪われた笑みを取り戻してあげるからね。

哀しみの忘却

君がいなくなって俺は実際ほっとしてる。
逃がしたのはきっとリボーンだろうな。
だって俺にバレずに逃げ切ることなんかできるわけないもん。

「リボーン。俺がほんとに名前を好きだったの知ってただろ」

「だから逃がしてやったんじゃねーか」

「…ありがとう」

俺の子供が描いた絵を見て泣きそうになった。
やっぱあいつの前で泣くんじゃなかった…
こんな絵描きやがって、5歳児の割に気い使うんじゃねーよ。

あの暗く狭い部屋で俺は息子に頼んだ

『俺の分まで母さんを守ってやってくれ』

俺は名前を傷つけることしかできないから。




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