ノックアウト まだまだ新しい白い階段をゆっくり上がっていくと、案の定、あいつがいた。 屋上に出るには寒がりのあいつには無理らしくて、屋上につながるドアに背を預けてしゃがんでる。 「…何やってんのよ」 「ん?何じゃ、さえかか」 いじっていた携帯を閉じて、下にあった視線を目の前の私に合わせた。 相変わらず、キレイな顔してる… 絶対そんなこと言わないけど。 「何?俺に会いたくなったとか」 「なっ馬鹿!!調子にのんな、サボりのくせに」 「それはお前さんもじゃろ」 「うっ…」 …やばい、墓穴ほった。 凄い恥ずかしい…しかも無駄に余裕そうなあの顔がさらに腹立つ。 黙ってしまったら負けと一緒なのに次の言葉が出てこない。 「くくっ…可愛いのお」 「うるさい!!」 「まあまあ、落ち着きんしゃい」 「っ〜〜」 ほんと、いっつも勝てない。 もっと素直になれたらどれだけ楽になるんだろう…実は授業に雅治がいなくて探してた、なんてとてもじゃないけど…いや、とても言えない。 「さえか、ちょっと此処に来んしゃい」 しゃがんでいた膝を崩して一度座り直してから此処に座れ、と言うように膝を叩く。 「…なんで私が」 可愛くない…飽き飽きしてくるほどに。 ほんとは抱き着きたくて堪らないくせに。 「寒くて堪らんのじゃ 頼めんかのお…さえか?」 「ん…」 でも雅治はそんなのも全部知ってるみたいに笑って、私の席を空けてくれるから 恥ずかしいとかムカつくとかどうでもよくなっちゃって、ギュッと背中に腕を回して抱き着いた。 「ありがとさん、さえか」 「べ、別に…私も寒かったから…」 顔が熱い…絶対真っ赤だ。 それを紛らわすみたいにベージュのカーディガンを握りしめた。 「…ほんとに可愛いのお」 ギュッと抱きしめて、私の林檎みたいな頬にキスをしてった。 「…馬鹿」 −一生かかってもこいつに勝てる気がしません ノックアウト…完敗です 素直じゃない?そんなの関係なかよ。 素直じゃなくたって、さえかの気持ちなんて真っ赤な顔みたらすぐにわかるからな。 それに、そんなさえかが可愛いんじゃから…ほんとさえかには敵わんぜよ。 |