短編
その声が、その唇が、その腕が
「…あ、あぁっ…ん、ひぁ…」
俺の口から嬌声が鳴る。
男が俺の体を貪る。揺れる俺の体。鳴き続ける俺の声。
気持ちいい。頭が真っ白になるほどに。
だけど、気持ち悪い。虚しい。疲れる。だるい。
「…っ」
男が俺の中で弾けた。トロリという感覚を体の中で感じた。
あぁ。
汚い。
────………
「───あの糞爺。三回も中出ししやがって。気持ち悪い。気色悪い。汚い。ムカつく」
「あんさー、カイル。いっつも、いきなり抱きついてくんのやめてくんね?つーかもう少しで苺オレ溢れるところだったんだけど」
呆れたように言うシェリルを無視し、シェリルの肩に顔を埋めた。仄かに香るシトラスが眠りを誘う。
俺は目を閉じた。シェリルの腰に回す腕に更に力を込めた。
「疲れた。何もかも。面倒くさい。……死にたい」
「馬ー鹿」
シェリルがため息を吐いたのを感じた。
シェリルは持っていたグラスを側にあるテーブルに置くと、包み込むように俺を抱きしめた。
シェリルは俺の頭に頬を寄せた。そして髪を撫でると、俺の耳にその秀麗な口を寄せた。
「お前が死んだら、こうやって喋れないし、お前をこうやって抱きしめられない。キスも出来ないし、お前の体温を感じられない。何もカイルを感じられないよ」
「……、…」
思わず唇を噛んだ。
その言い方、ずるい。
「カイルが死んだら、あたしも死ぬよ」
「やだ」
「だったら死ぬな」
「……シェリル」
「ん?」
俺はシェリルの首に腕を回した。はたから見たら今の俺は、まるで母親に甘える子供みたいだろうな。
「俺を抱きしめて、俺にキスして、俺を安心させて、俺を、…癒して」
シェリルがクスッと笑った。
「ガキみてー」
そう言ってシェリルと俺は、シーツの海へと身を堕とした。
その夜、俺は久しぶりに安心して寝ることが出来た。
その声が、その唇が、その腕が
(俺を救ってくれるんだ)
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