NandS
其の6
「クリームシチュゥ、クリームシチュー♪」
 楽しそうに歌いながら七海は誠一の家を目指す。なぜ誠一の家を目指しているかというと誠一の母多香子に『七海ちゃんの好きなクリームシチュー作ったから一緒に食べましょう?』と電話があったからだ。答えは勿論YES。それにパスワードの事も気になったからだ。
「ま、誠一じゃあのパスワードは無理よね〜」
 誠一が聞いたら怒り狂いそうな台詞をサラリと言いまだ見ぬクリームシチューに心踊らせつつ心持ちスキップしながら歩く。

 リリーン、リーン

 そんな時、七海のもつ携帯の一つが鳴り出した。
「もしもし?」
『そちら何でも屋のK.S.Nでよろしいかしら?』
 口調とは裏腹に低くくぐもった声が聞こえる。
(変声器、ね。ご丁寧な事)
 胸中での皮肉を目一杯声に乗せ答える。
「えぇ、そうよ。どちら様?」
『依頼を頼みたいわ』
 七海の皮肉にも取り合わず電話先の謎の主は話を進める。
「こちらの質問には答えないのね。ま、いいわ。それで依頼っていうのは何かしら?」
『簡単よ。あなたが受けた依頼にディスクを指定の場所まで運ぶ仕事があるわね?』
「…………」
 何故それを?言い掛けた口を閉ざし押し黙るが、それは肯定したも同じ行為。それに気付き七海は小さく舌打ちした。
『その仕事から降りて頂きたいの。それが依頼よ』
「………それは幾らかしら?向こうへの違約金も含めてそちらが払ってくれるのでしょう?」
 今更誤魔化そうとしても無駄。ならば隠す必要もないだろうと七海は思った。
(それにお金が貰えさえすればあたしは構わないし)
 と言う七海の期待は綺麗に裏切られた。
『懸命な判断ね。それとこちらからの依頼料は既に支払っているわ。この依頼を受ければあなた方の命は助かる。つまりあなた方の命が依頼料よ。だからこそあなたに拒否権はないわよね?』
「ふ〜ん。あたし達の命、ね………」
 『只働き』それが七海の頭に浮かんだ最初の言葉だった。そしてパスワード解析に費やした時間。さらにこの依頼の所為で教室で恥をかいた恨み。それが全て『タダ』になる。その瞬間七海の中で何かが外れた。
「フフフふっふ〜ん♪このあたしにタダで依頼から手を引けと?あなた、いい度胸じゃない?その言葉、絶対、後悔させてあ・げ・るっ」

 ブチッ!!

 それだけ言い七海は通話を一方的に切る。
「それに覚えておきなさい。この七海様に命令できるのはあたしだけって事をね」
 そう誰もいない路地で見えぬ相手に宣言すると直ぐ様違う携帯を取り出し電話帳を呼び出した。

 プルル……プルッ

『七海?』
「確認しなくてもこの番号はあたしよっ!それより早くあのディスクを持って何時もの場所に来て!説明は後よ」
『ちょっ、まっ』

 ブチッ!

 これまた一方的に通話を切ると七海は楽しそうに口の端を釣り上げた。
「さぁて、面白くなりそうね」
 一言呟くと七海は携帯を折り畳んでしまい駆け出す。誠一に今し方指定した何時もの場所へ。

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あきゅろす。
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