NandS
其の5
 ツーツーツー

 耳にあてた携帯からは相手が通話を切った印である音が響いている。
「ったく、何が“というわけなんで”だ。訳わかんねぇよ」
 もう一度愚痴を零してから誠一は未だ繋がったままである携帯の電源ボタンを押した。そして青々と光るパソコンの前に向き直る。その画面には
『パスワードを入力してください』
の文字が表示されていた。 誠一は自室に戻ってから約30分、ずっとパソコンの前に陣取るように座っている。

 ピー………‥‥‥

 小さな電子音が誠一の耳を叩いた。そこで初めて誠一はパソコンのキーボードに手を触れる。カタカタとキーボードに手を滑らせながら『パスワードを入力してください』を表示している画面上に新たなページを重ねるように開いた。その画面には数字が大量に並びその上に赤い文字で“該当無し”とあった。
「マジかよ……」
 期待していただけに落胆も大きかった。誠一は今の今までパスワード解析に励んでいた。初めは0〜9迄の数字の組み合わせ全てを試しその次はA〜Z迄の英字、その次は両方合わせた英数字を。そして今該当無しと判定された。
「はぁ〜」
 誠一は落胆と疲れを吐き出すように盛大に溜息を吐いた。
(公太に協力要請して正解だったかもな……)
 あまりにも難解な壁、難攻不落の城壁を見上げるように誠一は『パスワードを入力してください』の文字を見続けた。

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