NandS
其の3
 七海は俺にパスワード解析を押し付けると
『んじゃ、よろしく〜!』
 バタンッ!
 と俺を外へ締め出した。
『…………』
 釈然としないまま俺は帰路に着く事になった。



「ただいま〜」
 靴を脱ぎそれを揃えながら俺は家にいるであろう人物に帰ってきた事を告げる。
「お帰り誠ちゃん。七海ちゃん元気だった?」
 案の定玄関に顔を出したのは俺の母親。聖 多香子である。
「元気も元気すっげー元気」
 今日の出来事を思い出しげんなりしつつ俺は答える。そんな俺を知ってか知らずか母さんは弾んだ声で言う。
「七海ちゃん今度はいつ来てくれるの?」
「いつって昨日来たばかりなんだけど……」
「あら、いいじゃない。昨日はご飯しか食べて行かなかったんだから。明日は日曜日だしいっその事泊まっていったて構わないわ」
 母さんはまるで修学旅行に燥ぐ子供のように言う。
「あそ。ご自由に」
 付き合ってられん。つーかこっちはパスワード解析しなきゃなんないし。
「誠ちゃんったらいつからそんな口を利くようになったの?!どこで育て方を間違えたのかしら?あんなに素直でいい子だった誠ちゃんが!!」
「ゎーかったから、いい年して泣くなよ。(泣きたいのはこっちの方だよ)てか素直でいい子っていつの話だよ」
 俺はエプロン掴んでメソメソ泣き始める母さんに疲れ気味言う。
「まだ私いい年なんかじゃないわよぉ!」
 突っ込みどころはそこですか。あぁ、そうですか。
「幾つだよ?」
「34」
「……十分いい年じゃん」
「誠ちゃんの意地悪〜!ばかばか〜!近所の方には奥様若くて綺麗で羨ましい〜って言われてるんだから〜」
「子供っぽいと童顔の間違いじゃん?」
「むぅ!そんな事言う誠ちゃんはご飯抜き!」
「あ〜はいはい。自分で作るから別にいいよ――」
 ん?なんか変な匂いがするぞ……。もしかして……。
「――っ――!―って誠ちゃん!聞いてる?」
「母さん、今日の夕飯何?」
「多香子。まだ母さんなんて年じゃないわよぅ」
 だから突っ込みどころはそこなんですか?あぁ、そうなんですね。
「で、多香子さん今日の夕飯何ですか?」
「よろしい。今日の夕飯は七海ちゃんの好きなクリームシチューでーす!」
 自信満々に答える母さんを横目に俺は先程から漂う怪しげな匂いの正体を知る。
「で、多香子さん。焦げた匂いがするんだけど……。手に持った御玉を見るかぎり火に掛けっぱなし、なーんて事はないよな?」
「え?」
 そこで初めて自分がやっていた事を思い出したのか母さんは御玉を見てハッとしたような顔で慌ててキッチンに走り去った。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
 そしてキッチンから悲鳴が上がった。
「シチュー焦げたな」
 誰に言うでもなく呟くと俺はパスワード解析をするべく自室のある2階へ上がった。

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