NandS
其の1
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「七海……何だこの紙の山は…」
「ダイレクトメールよ」
「いや、それはわかった」
「じゃあ何よ?」
「俺が言いたいのは何でこんなにあるのかって事だよ!!」
 朝っぱらから呼び出され七海の家に来てみれば紙の山とご対面。そして七海の第一声は
『封筒につめるの手伝いなさい』
 の命令だ。やってられるか!
「五月蝿いわね、口じゃなくて手を動かしなさいよ、手を。それに手書きにしなかっただけ有り難いと思いなさい」
「……手書きってどっちにしろ全部俺に書かせる気だったんだろ!」
「当たり前でしょ!そこ曲がってる!しっかり綺麗に折りなさい!」
 言いつつ七海は優雅に紅茶を啜っている。勿論入れたのは俺だ。
「つーかお前もやれよ!」
 七海の態度に俺は噛み付くように訴えた。
「あら、誠ちゃんいつからあたしに命令できるようになったのかしら?」
 そして俺は笑顔の七海の笑っていない目に出会った。
「……………わかったよ、やりゃぁいいんだろ」
 仕方なく俺は承諾した。飽く迄で仕方なくだ。
「わかってるじゃない!」
 俺ってこんなに押しの弱い人間だったのか?俺は今無性に泣きたい気分になった。
 入学式から1週間が経ち俺のイメージは見事に変わった。どれもこれもみーんな七海のお陰だ。
「それが終ったら部屋の掃除もやっといてね〜」
 もはや‘お願いね〜’ではなく‘やっといてね〜’の命令になっていた。
 俺の存在意義って何なんだろう?
「何?なんか文句でもあんの?」
「………無いです」
「んじゃ、よろしく〜。あたしはやる事あるから〜」
 そう七海は言って部屋を出ていった。
「やる事って何があんだよ、全部俺にやらせてるくせに……」
 本人の前では何も言えない情けない自分に気が付いて俺は盛大に溜め息を吐いた。
「はぁ〜〜〜…………」
 そんな状態なりながらも俺の手は七海の言われたとおりダイレクトメールをきっちり折り封筒につめていた。

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