extra……*
始まりの鐘(前編)
┗NandSより
 学校は嫌い。何十人もの人を閉じ込めた閉鎖的空間。“みんな同じ”を徹底的に追求する場所。息苦しい。だから学校が嫌い。

*+*

「3年2組に新しいお友達がやってきました。自己紹介してくれるかな?」
 またか。と内心溜息を吐く。つい先月同じように自己紹介をし、同じように好奇の目に晒された。仕方が無いと言えばそれだけの事。
「香村七海」
 それだけ言って押し黙る。他に紹介する事もその必要もない。どうせまた直ぐに転校するのだから。
「七海ちゃんまだ来たばかりで緊張してるのね。大丈夫、すぐ慣れるわよ。みんなも仲良くしてあげてね」
 “はーい”と言う声が所々から聞こえる。別に仲良くなんかしてくれなくてもいいけどね。胸中の中で呟きながら指示された自分の席に着く。さて、何日この席に座れるか。
 一時間目の授業は算数だった。

*+*

 一時間目の終りのチャイムが鳴ると同時に席を立った。そして逃げるように廊下へ向かう。実際に逃げているのだけど。何からと言えば質問から。転校する度に“何処から来たの?”“何処に住んでたの?”“前の学校って?”エトセトラ…………。質問される方はたまったもんじゃない。逃げたまではよかったけど特に行くあてもない。当たり前だけど。だから何となく上へ向かってみた。
 階段を上がって上へ上へ。少しづつ人気が失せる。更に上へと階段を上がる。辿り着いた場所は屋上への扉。立入禁止の貼り紙を踏み越え扉に手をかける。
 ガチャン
 鍵が掛かっているのか扉は支えて開かなかった。少しだけ悩む。ほんの少しだけ悩んで結局ヘアピンを2本髪から引き抜く。1本を真直ぐにのばしもう1本を適当な形に変える。真直ぐにのばしたピンを鍵穴に入れ、あてがうようにもう1本のピンを差し込む。時折ピンを抜き鍵穴の形に調整しながら差し込む。それを繰り返し行う。暫くするとカチっと小気味よい音がして鍵が開いた。
「ま、こんなもんよね」
 誰に言うでもなく呟きを洩らすと使ったヘアピンをポケットにねじ込む。扉に再度手をかけガタガタッと立て付けの悪い音を響かせながら開ける。視界に飛び込んできたのは青色。空の色。澄んだ色。風が心地よい。
(もっと高いところ…)
 屋上をぐるっと見回し給水ポンプや避雷針が立つもう2、3メートル高くなった場所に視線を定め、その周りをゆっくり歩く。
(あった)
 捜していたものを見つける。更に上へ上がる為の梯子を。梯子に手をかけ一歩一歩梯子の感触を確かめながら登る。古びた梯子はギシギシと嫌な音をたてた。
「っ!!!」
 登った先に人がいた。予想していなかった事に心臓が跳ね上がる。驚いた拍子に手が滑り梯子から離れた。
「あ……」
(お、おちっ――、る!)
 間抜けな声を洩らし逆に胸中では絶叫する。堅く目を瞑り衝撃へ備える。
「……?」
 いくら待っても衝撃は襲ってこない。ゆっくり目を開ける。手首を捕まれていた。脳が状況を理解すると同時に捕まれた手首が痛みを訴えだした。けれどそれ以上に心臓がバクバク鳴っていた為あまり痛みは気にならなかった。
「あんた誰」
 頭上から無感情などうでもいいような投げ遣りな声が降ってくる。ポカンとした表情で暫く眺めていた。
「手、放すけど」
 言われて初めて気付いた。梯子をしっかり掴み直す。
「う、うん。ありがとう」
「別に」
 プツリと終る会話。静寂に似た耳に痛い沈黙。
「あたし、香村七海」
「……?」
 いきなり何だ?と言う表情をされた。ムカつく。
「“あんた誰”って言ったから」
「あー。俺、聖誠一」
 自分で言った事なのに今思い出しました、的なリアクションをする。
(変なやつ)
「ここで何してるの?」
「昼寝」
「昼寝ってまだ1時間目終ったばっかだけど……」
「じゃぁ、朝寝」
(ますます変なやつ)
「要するにサボり?」
「そうとも言うな」
 呆れた。だけど何だろうこの不思議な感じ。
「どうやって来たの?ここ鍵掛かってたよね?」
「ん、これ」
 そう言って手をかざす。金属と金属が打ち鳴らす形容しがたい音を奏でそれは視界に飛び込んできた。
「鍵?」
「そ、ここの合鍵」
「どこでそんなの」
「秘密。あんたこそどうやって来たんだ」
 ポケットにねじ込んだヘアピンを取り出し見せ付ける。
「これを使ったの」
「……へぇ〜」
 ちょっとした自慢の一つピッキングだ。常識でものを考えるならこれは異常。でも、特に不都合を感じない。だって悪事に使わなければそれはただの技術でしかないのだし。そんな事を考えていると……

キーンコーンカーンコーン

 休憩時間の終りを告げる鐘が鳴りだした。

キーンコーンカーンコーン

 放送後の独特な余韻を残し2時間目の始まりの鐘が鳴り止む。
「俺はまだここにいるけどあんたはどうすんだ」
「ん〜……。サボるわ」
 少しだけ考えてサボる事にする。何故だかここにいたいと思ったからだ。

*+*

 あれからあたしと誠一はよく屋上で授業をサボった。理由には保健室に行ってくると言うものだ。保健室には気分が善くなったので教室に戻ると言う。これで教室にも保健室にもいなくて平気だ。
 あたしは何時も通り屋上の鍵を取り出し扉を開ける。鍵は誠一から貰ったものだ。毎回あたしがピッキングして開けているのを見兼ねたらしい。「やるよ」と一言言って押しつけてきた。今だに鍵の入手経路は不明。まぁ、別に構わないけどね。
 屋上に出ると心地よい風が髪をそよがす。今日は快晴絶好のサボり日和。古びた梯子を使い慣れた手つきで登る。登った先には―――。
「誠一っ!起きろーっ!」

キーンコーンカーンコーン

 学校はやっぱり嫌い。何十人もの人を閉じ込めた閉鎖的空間。“みんな同じ”を徹底的に追求する場所。息苦しい。それは今だって変わらないけど、それでも少なくともこの屋上だけは嫌いじゃないと思う。

キーンコーンカーンコーン

 始まりの鐘が鳴った。


-fin-

** 前へ **** 次へ **

3/7ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!