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短冊集
▽最後の一人
 これは私が中学生だったときの話です。

 私が通っていた中学校は墓地跡に建設されたと噂されています。そんな噂話があるために何かと問題があると幽霊のせいだなどと騒がれていました。ただ幽霊は単なるネタになるだけで、真面目に受け取る人なんていませんでした。
 しかし私にとっては違いました。今の私にはありませんが、高校入学までは少しばかりの霊感があったんです。

 小さいときは視えることが普通だと思っていました。しかし段々と自分だけが違っていると感じていきました。
 親や友達といった周りの人には相談できませんでした。小さいときは霊について口にしたとしても、運良く幼さからくる架空の友達だろうと大人達は思ってくれていたので問題にはなりませんでした。そして大きくなるにつれ周りとの差があることを感じ初め、変な目で見られないようにと、霊に関する全てを自分の内に蓄めていました。
 そうやって外へ発散しないことが悪かったのかもしれません。夢でうなされることもありました。その中でも繰り返し見る印象的な夢がありました。

 夢の中では私が周りの見えない暗闇の中を走っています。後ろからは誰かが追いかけてくる足音が聞こえるだけで、姿はありません。いえ、振り向くことができず、見ることができなかったと言った方が正しいですね。
 足音から逃げるかのようにただひたすら走っているだけで、息を整えるために止まることもできません。真っ暗な中で自分が足を動かしている感覚はとても薄いのですが、自分は走っているという認識だけはあります。
 周りの景色はただの黒。どれだけの速さでどれだけの距離を進んでいるのか分からないままひたすら走り続けていると、後ろから聞こえてくる足音が段々と大きくなってきます。ある程度音が大きくなったところでいつも目覚めます。
 手を伸ばせば実際に肩を掴まれてしまうのではないか、そう思えるくらいの距離まで足音が迫ってきたときもありました。起きたときにはいつも実際に走っていたように汗だくになっていました。

 私が走り、後ろから足音が追いかけてくるというだけの繰り返しですが、少しずつ変化していることがありました。実は目覚める直前に声が聞こえてくるのですが、そのときに告げられる数字が変化していたんです。

「あと3歩……」

「あと2歩……」

 そして先程言った、手を伸ばせば掴める距離のときは

「あと1歩……」

でした。

 繰り返しこの夢を見ている内に、私は水曜日の夜に見ていることに気が付きました。このことに気が付いたときにカレンダーで水曜日に何か特別なことがあるか確認し、驚愕しました。数字が0になるだろう日には学校のマラソン大会が予定されていたのです。
 マラソンとは走るという共通点があります。そして走っている感覚が薄いことは、長距離を走っているせいで走っている感覚が鈍くなった状態を表しているとも考えられます。
 何かがあるとすればこの日に間違いないと思いました。

 私は当日なんとかして学校を休もうとしました。しかし両親は私が運動が苦手だから嫌がっているのだろうと思っているだけで、学校に行くように促します。霊感について両親に相談したことがなかったため、行きたくない理由を説明することもできず私は渋々ながら学校に行きました。
 登校中も、学校に着いてからも私の気は晴れません。刻々と時間は過ぎていきました。そして準備も完了し、とうとうスタートのパンという音が響きました。
 私はマラソン大会を意識するようになってから寝不足でした。ただそのことを差し引いてもオツリがくるほどの遅さでした。ですから恥ずかしながらもどんどん順位は落ち、ついには最下位になってしまいました。順位なんか関係ない、このまま何も起こらないでくれと祈りながら走りました。
 しかし神は悪戯好きです。
 急に背後から人が近付いてくる足音が聞こえました。聞こえたとたんに体が重くなり汗が吹き出てきました。私の本能が振り向いてはいけないと痛いくらいに叫んでいました。叫んでいたのですが私は振り向いてしまったんです。
 私の目に写ったのは一人の女性。走るフォームはとても綺麗で見るからに陸上経験者だと分かりました。もう私は捉えられてしまったと悟りました。ただコースは残りストレートだけでもうすぐゴールです。私は結末の瞬間を少しでも遅らせ、あわよくば逃れようとなけなしの体力であらがいました。そんな努力も嘲笑うかのごとく、足音はどんどん近づいてきました。夢の再現です。私はぎゅっと目を閉じて残りを駆け抜けることにしました。
 しかし無惨にも足音は私に並びました。そして追い抜いていきました。そう、私は周回遅れになってしまったんです。

 マラソン大会が終わってからは、ぴたりとあの夢も見なくなりました。あれは予知夢だったのでしょうか? こんなことを予知してもどうしようもないんですがね。

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