短冊集
○昨日の凡人、今日の勇者
山で拾った物を今朝村長のもとに持って行くと、村長が突然全身を震えさせ出した。なにやら伝説に伝わるもので、魔王を倒す運命にある者が手にするとのことだ。
「ま、頑張ってこいや」
村長は軽く私の肩を叩いて激励し、送り出してくれた。
そして今、噂の魔王と決着がつきそうなところである。
「ぐはっ」
見事に私の横なぎが決まり、魔王は膝を付いた。
「よぉぉぉぉぉ──」
しかしすぐさま立ち上がり、纏うオーラが増していく。最後の奥義でも出すつもりなのかもしれないと考え、私は構えを崩さなかった。
「──ぉぉぉっしゃー!」
魔王が叫び声に合わせて、急にガッツポーズをとった。
気合いを入れ直しているのだろうか?
「よくぞ倒してくれた」
魔王は兜を被っているので表情こそ確認できないが、とても晴れやかな声で語り掛けてきた。
「えーっと、これが大まかな仕事内容が書かれたもので……鎧なんかは後でサイズ測って発注することになってるし……」
ポーズを解くとすぐに小走りで、対戦前に座っていた椅子の後ろに回り込んで、書類をいくつか出し始めた。
いったい何を言っているのか分からない。
「ん? あぁ、君も何も知らされず来させられたくちか」
何もピンと来るものがなく呆けていると、魔王がこちらを向いて話始めた。
「この世界は人間に自由にさせておくと、悪い方にしか転がらない。だから魔王に就いた者が、世界の均衡を保つわけ。人さらいしては過疎化しているところに移住させたり、略奪しては貧困に苦しむ人に配ったりとね。今まで魔王が世界を滅ぼしたことないだろ?
魔王とは言っても本当は人間だから、世襲制で続けてるんだ。力がなきゃ実行できないから実戦形式のテストをしてね。魔王を滅ぼしたって噂が流れても、しばらくすると新しい魔王が現われてるだろ? ずっとその繰り返しさ。
まぁ後の細かいことは、秘書の村田さんがすぐに来ると思うから、そのときに聞いといて。それじゃあ君のために部屋の片付けでもしてくるよ。明日からよろしく!」
そう言うと現魔王は扉から出ていった。私は一人取り残されてしまった。
どうやら明日から、魔王をやることになったらしい。
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