短冊集
□生きる
そう、あれは吐く息が白くなり、もう冬になったんだなと思ったころだ。
まだ稲作も伝わっておらず、基本的に人々は狩りで生計を立てている時代。私は残念ながらそちらの腕前はさっぱりで、縄文土器販売をなりわいとして、なんとか日々を過ごしていた。土器を作っては売り、作っては売りの繰り返しばかり。そんな退屈な毎日ではだんだん嫌気がさしてくるものだ。
私はふとしたきっかけで博打に手を出し、有り金をすべて失なってしまった。土は限りなくあるが、土器を作るための窯は差し押えられてしまった。気が付けば窯どころか、自分を暖めるための火さえ簡単に融通出来ない状況にまで陥ってしまった。
貝塚で残り物を見つけては、なんとか生き長らえる生活をしていたが、そんなこと長く続くものではない。私は飢えと疲労のため、雪の降る中倒れたまま動けなくなってしまった。
この世になど未練はない。なんだか笑えてくるが、すでにその力さえ残っていなかった。
このまま眠ればすべてが終わる。凍えゆく中、そんなことを考えている私は彼女と出会った。
彼女は誰もが軽蔑の目で見るようになった私に、食べ物と飲み物を与えてくれた。笑うことさえできないと思っていた身体は、目の前に食事を出されると案外動くものである。始めは飢えしか意識出来ず、ただ貪りついていたが、腹が満たされてくると、なぜ彼女はこんな私に優しく接してくれるのか気になった。
「どうして私を助けてくれたんだ?」
「あんた、心の底では死にたくないって思ってたよ。そんなあんたの『生』の気持ちに応えてやっただけさ」
私は涙が止まらなかった。生きる気力が、溢れ出る涙に合わせて沸き上がってくる。生きているだけで幸せだと、なぜ気付かなかったんだ。退屈なのは楽しもうとしない自分が悪いんだ。大切なことに気付かせてくれた彼女に、感謝の言葉を心の中で繰り返した。そして私は彼女にこう言った。
「じゃあ今度は、こっちの性にも応えてくれるかい?」
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