08 本音 言葉数少なく歩く道。 流れる沈黙は決して重いものでなく。 心地よい時間。 本音 楽器店からの帰り道、ここから二駅ほど離れた、できたばかりの大型楽器店に行かないか、と葉山さんを誘った。 前に、僕たちの間で話題になったからだ。 僕の提案を快く了承してくれた葉山さんと二人で歩く。 二駅といえど、駅と駅の距離はたいして離れていない上、道を選べば電車を利用するより短時間で目的の店に辿り着ける。 そう言って、半ば説き伏せるような形で徒歩で向かうことにした。 お互い、ぽつりぽつりと話すだけで、特に会話らしい会話はしていない。 けれど、二人の間に流れる沈黙は居心地の悪いそれではなくて。 場を持たせようと、話題を焦って探す必要を全く感じない。 ゆったりとした時間が流れる。 休日の昼という人々が活発に動き始める頃合いに、人の活動によって作り出された騒音から隔てられた静かな空間。 そこに僕たち二人はいる。 そんな気がした。 歩き始めて30分ほど経とうかという頃、大きなビルが僕たちの視界に入ってきた。 「思ったより……おっきいですね。」 「…うん。」 聳え立つビルは、僕たちの想像を超えた大きさで。 一瞬呆気にとられた僕と葉山さんは顔を見合わせると、意を決してビルの中へと足を踏み入れた。 建て前は、以前話題にのぼったことと、僕が楽譜を買いに行きたいということ。 でもきっと本音は。 少しでも長く、あなたと一緒にいたかったから。 . [←][→] |