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06 器店


お互いがお互いを待たせたくなくて。

二人して約束の10分前に噴水へと到着して。


その事実に、僕たちは顔を見合わせて、くすくすと笑った。



「…じゃあ今度は時間通りにしよう。僕もそうするから。」



そう、今度会うときは。





器店






乗り込んだ電車は、平日程とまではいかないまでも、かなりの人で空間が満たされている。
僕たちは、ドアに寄りかかりながら向き合って話をしていた。



「人、多いんですね…あまり電車乗らないから、知らなかった。」
「平日はもっと多いよ。」
「うわー、大変だ。」



他愛もない会話を交わしながら、目的地までの時間を楽しむ。
初めこそ人の多さが気になったものの、次第に会話に夢中になり、気づけば電車の中の密度が減っていた。


電車に揺られること30分。


駅の改札をくぐってから、蝉たちの鳴き声をBGMに歩くこと10分。
秋口だというのに、空から照らしてくる太陽の光が眩しい。


街中から少し外れた場所に、いつもお世話になっている楽器店がある。
規模は大きくないけれど、暖かい雰囲気のこの店が、僕は好きだった。



「こんにちは。」



カランコロン、と扉につけられた鐘が音を奏でる。
葉山さんを誘導してから、中に入った。

楽器のために適度に保たれた室温と湿度が、日光のもとを歩いてきた僕たちにはとても気持ちいい。
葉山さんは入るなり、目の前にズラリと並べられた楽器をキラキラとした表情で眺めていた。



「やあ、志水君。待ってたよ。」



店の奥から、初老の男性が出てくる。
ひげも髪も真っ白になってしまっているけれど、目だけは音楽を、楽器を愛してるという輝きに満ちた人だ。
この店の雰囲気を人にしたら、この人みたいになるだろう。



「志水君のチェロはこちらに……おや、あちらのお嬢さんは?」
「………友達、です。一緒に来ました。」



なおも並べられた楽器を食い入るように見ている葉山さんに気づいた店主は、僕に問いを投げかける。
僕の答えを聞くと、そーかいそーかい、とイタズラっぽい笑いを浮かべて僕のチェロを取りに向かった。


………。
なんだったんだろう、あの笑いは。


程なくして、見覚えのあるケースを手に、店主が戻ってくる。



「支柱のズレと駒を直しておいたよ。」



ケースからチェロを取り出しながら店主は言う。
僕は近くにあった椅子を引き寄せ、彼からチェロを受け取った。


うん、やっぱりこのチェロが一番しっくりくる。


いつものように構えて、調弦を始める。
メンテナンスに出す前に感じていた音の歪みが、嘘のように消え去っていた。


ちらりと葉山さんに視線をやれば、調弦の音で気づいたのか、少し驚いた顔で僕の方を見ていた。


僕はそれを確認すると、目を閉じて曲を奏で始める。





瞼の裏には、教会でピアノを弾く葉山さんの姿が浮かんでいた。




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