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05 待ちわせ


10時に駅前の噴水。


4日前に交わした約束。
僕にとっての、今日の始まり。





待ちわせ






電車の心地よい揺れ。
気を抜けば微睡んでしまいそうな頭に叱咤して、約束の場所へと向かう。


自分から言い出したことだから。
待たせるのは失礼だから。


そう思って、予定の時間より早めに行動した。


早めに起きて、朝食を済ませて。

いつもよりきびきび動いていた僕に、叔母は少しばかり驚いていた。
今日はどうしたの、って。

メンテナンスに出していたチェロを引き取りに行くこと、そのために待ち合わせをしていることを伝えたら、あらあら楽しそうねぇ、って笑ってた。


叔母の、いってらっしゃい、という声を背に家を出る。



荷物はない。


チェロは今日手元に戻ってくるし、練習に行くわけではないから楽譜も必要ではない。



「……楽譜。」



そういえば、欲しい楽譜がいくつかあったっけ。

駅のホームでぼんやりと電車を待ちながら、ふと思い出した。
ズボンのポケットから財布を引っ張り出して、中身を確認する。

メンテナンスの代金は、預ける折に支払った。
だから今日は、財布にお金を足して来なかった。



「……うーん。一冊?」



たくさん入っていたわけじゃないけれど。
楽譜を買うには十分な金額が入っていた。

どの楽譜を買おうかな。

ホームに滑り込んできた電車に乗りながら、財布を元あった場所にしまう。
財布とズボンとを結んでいるチェーンがジャラジャラ、と軽い音をたてた。


電車のシートに身を預けると、一定のリズムを刻む揺れが、すぐさま僕を包み込む。

昨日眠れないから、と遅くまで本を読んでいたのは失敗だったな…。

じわじわとやって来る眠気と戦いながら、目的の駅へと降り立つ。


改札を抜けると、休日の朝だというのに、駅前通りはたくさんの人で賑わっていた。
噴水の前もそれは同じで、僕と同じように待ち合わせをしている人が何人もいる。

僕はその人たちに紛れてしまわないように、なるべく駅前通りから探しやすい位置を選んで立ち止まった。

9時50分。

約束より早く着いた。
待たせずにすんだな、と時計から目を離すと、軽やかな足音とともに目的の人物がこちらにやって来るのが目に入った。



「……!志水さんっ!!」



聞こえてきた声に、それまで靄がかかっていたような頭が一気に覚醒するのを感じる。

笑顔で手を振る葉山さんに、僕も笑みを浮かべて手を振り返した。





もしかしたら…早くあなたに会いたかった、からかもしれない。




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あきゅろす。
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