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09 楽


僕たちを迎え入れるべく、大きく口を開いたガラスの扉をくぐると、たくさんのピアノの出迎えをうけた。

展示されているピアノはどれも艶やかに店の照明を反射させている。

定番の黒いグランドピアノに、たまに見かける白のピアノ。
透明で中の仕組みが見えるピアノもあった。



うっかりそちらに向かいそうになるのをこらえて、僕たちは楽譜が置いてある階へと向かった。











もともとこの楽器店は、音楽に関するものならありとあらゆるものを扱っている。
1階はピアノで埋め尽くされていたが、弦楽器専門の階なんてものある。
管楽器に至っては楽器の種類が豊富なためか、複数階にわたっている程だ。

さらに、上層の階になると音楽教室、そしてホールまである。
音楽に関することは、一通りこのビルでできそうだ。


楽譜を扱っているフロアに着いて周りを見回す。
かなりの量の楽譜が取りそろえられている。


これは目的の物を見つけるまでに、少し時間がかかりそうだ。


そう思って小さく息を吐いたとき、隣でキョロキョロと興味深そうに周りを見ていた葉山さんが僕の袖を小さくひっぱった。



「あの……志水さんが楽譜を探している間、あちらを見てていいでしょうか?」



彼女が指差す方に目を向ける。
そこには楽譜に負けないほど大量のCDが並んでいた。

おそらく、クラシックに特化した品揃えなのだろう。
作曲家別や演奏者別、指揮者別のプレートがいくつか見えた。


楽譜を探すのには時間がかかるだろうし、その間葉山さんを待たせるわけにはいかない。


軽く頷いてみせると、葉山さんの顔がパァッと明るくなった。



「じゃあ、僕は楽譜を買ったらCD売り場に行くよ。」



僕の言葉にコクンと頷く彼女を見届けて、僕たちは各々目的の売り場に向かった。



「チェロ…チェロ……。」



チェロの楽譜の棚を探して歩く。
ふと、視界の端にピアノ譜の棚が見えた。



「………ショパン、エチュード集。」



真っ先に目に入った楽譜は、葉山さんと初めて出会ったときに耳にした曲のもの。
手にとって、楽譜を開く。


別れの曲。


譜面を指でなぞっていく。
カンタービレの響き。





耳の奥では、あの時の音が響いていた。




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あきゅろす。
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