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二次創作/夢
夢も現も貴方と結ばれる(特別隊員番外編・If/忍田に迫られる夢/蘭様)






「ああ、朔。ちょうど良かった…今から君を呼ぼうと思っていたんだ。よければ茶でも飲んでいかないか」


「はっ…あ、あの、すみません…」


「…どうした?体調でも悪いのか」



本部長の執務室に程近い通路で、忍田は可愛がっている部下を見つけて破顔した。茶を入れようと思っていた所だったので、茶会によく参加する朔と会えてタイミングが良いと感じたのだ。

ところが声をかけられた当人は何処か歯切れが悪く、心なしか目もうろうろと泳いでいる。違和感を覚えた忍田が心配して熱の有無を確かめようとするのは、ある意味普通のことと言えた。



「熱は…無いみたいだな。具合が悪いなら休んでいきなさい」


「いっいえ大丈夫!です!!
気になさらないで下さい…!」


「しかし…様子がおかしいぞ。何かあったのか?慶が何かしたのか」



―やはり、どこかおかしい。

体調不良が原因でないのなら、心労が原因か。そう思った忍田は、いの一番に己の弟子の名前を口にした。もしこの場に彼が居たならば、身に覚えのない嫌疑をかけられて驚いたことだろう。仮に抗議しても、彼の今まで働いた不逞を引き合いに出されてしまえば反論しようもないが…。

それはさておき、太刀川の名前を出された朔の反応はどうだったのか。表情にさしたる変化は無くとも、長らく彼女を鍛えていた忍田としてはその思いを読み取る事は容易かった。…明らかに困惑している。
益々彼女の挙動不審である理由が分からなくなった忍田は、眉を顰めた。では一体、何が原因だというのか?もどかしい思いに襲われた彼は、情動に任せてそのか細い肩を掴んだ。



「!あの、」


「朔、私にも言えないことなのか……?」



ぐっと近くなった距離に気を払うことなく、忍田は切なげに問い掛ける。一方の朔はといえば、さまよっていた視線が更に忙しなく動いており、顔も赤い。詰まるところ、常に平静な彼女からは考えられないほど動揺していた。



「もっ、」


「朔?」


「無理です…!!トリガーオン!!!」


「!!?」



絞り出した声が情けなく震えていようとも、朔には全く余裕が無かった。逃げ出す為にトリオン体に換装し、忍田の隙をついて地面を蹴る。呆気にとられた彼が慌てて声をかける頃には、その姿はとうに見えなくなっていた。



「は……?」
























―息が、苦しいです。


「、苦しかったか?
すまない…だが煽ったのはそちらの方だぞ」


―だ、だからといってしつこくキスしないでくださ、!



ぼんやりと靄がかかっていて、相手の顔がはっきりと見えない。
朔は白いシーツの上に横たえられており、覆い被さる相手に向かって苦言を呈していた。が、その小さな抗議も虚しくその唇ごと飲み込まれてしまう。大きく目を見開いた彼女は、相手の肩を何とか押しやろうとした。しかし、先程まで繰り返されていた長い長い口づけのせいで突っぱねる腕には力が入っていない。両手とも胸の前で纏め上げられてしまうまでに、さして時間は掛からなかった。

唯一自由な首さえも、もう片方の手で顎ごと固定されては動かしようがない。耳を塞ぐ事すら許されず、いやらしい水音が頭の奥にまで入り込む。せめてもの抵抗に瞼をきつく閉ざしてみるが、より強く相手の蠢く舌や熱い吐息を感じる羽目になってしまった。
びくびくと体を震わせながら堪える朔のその姿に、相手の男は愉快そうに喉の奥を鳴らす。完全に弛緩した体に拘束の意味はないと判じたのか、掴んでいた細い腕を放して片手を自由にした。



「可愛いな、朔」


―も、勘弁してくださ…っ



そう言った朔は、一際大きく体を揺らす。節くれだった手が服の裾から入り込み、へそのあたりをゆるりと撫でたからだった。潤んだ視界で彼をとらえると、朔は彼が見えない筈の目を細めて笑ったように感じる。

ああ、その笑い方は…。







「し、のださん…」

























(何故私はあんな夢を…見…っ見てしまったんだ………!!!)



朔は涙目になりながら人気の無い通路を走っていた。

あんな夢を見てしまった朝、彼女はまず激しい自己嫌悪に襲われた。夢とは己の深層心理が現れたものだとよく聞くが、もしその通りなのだとしたら?知らず知らずの内に望んでいたものだったとしたら?自分はどうすべきなんだろう。ぐるぐると考えは迷走する。結局重い体を持ち上げてベッドから出たのは、彼女が目覚めてから一時間後のことだった。

ボーダー本部に足を踏み入れてからも、朔の気分は晴れることなく沈んだまま。自身の不調すら周りに悟らせない彼女が見たからに気落ちしている事は、風間隊を初め多くの者が気がついていた。下手に励ますよりも一人にした方が良さそうだと判断した彼らは、そっと側を後にしたのである。
そんな心遣いに感謝しながら、朔は気分転換がてら本部を散策しようと、行く宛もなくふらふらと歩くことにした。しかし(彼女自身無自覚ではあったが)、その足は本部長の執務室に繋がる道を辿っていたのだ。こうして日々の習慣が仇となる形で、彼女は溜め息の素とばったり出くわしてしまったのだった。

爽やかに笑みを浮かべながら近付いてくるその人は、朔にとって上司であり師匠だ。その事実はこの先も変わることは決して無いが、厄介なことに新たな肩書きが加わってしまった。

―自分が、そういう想いを抱いている人。

自覚したのは、まさに出くわしたその瞬間。皆の前で動揺を表に出してしまった彼女ではあったが、頭を冷やしたからもう大丈夫と思っていたのだ。しかし、それはただの思い込みだった。自分に対する言い聞かせだった。


瞳を細めてやさしく笑われては、もうひとたまりもなかった。



(調子に乗ってはいけない、私はあの人には釣り合わない…!)



あんな風に心配してくれるのも、触れてくれるのも、全てあの人が優しい人だから。
思い上がってはいけない。夢の中のように愛してくれるわけがない。そもそも、年齢も身長も何もかも釣り合っていないのだ。沢村さんのような、あんな大人の女性が一番あの人には似合う。



「…っ」



ただただ、ぼやける視界が疎ましかった。































「追いかけて下さい、今すぐに!」


「え?」



執務室で腰を下ろそうとした彼は、思いがけず強い語気に襲われることとなった。

朔が走り去ってから暫く立ち往生していた忍田は、とりあえず執務室に戻った。予想より早い忍田の帰りに訝しげな顔をした沢村は、朔はどうしたのかと問い掛ける。そこで彼が事の顛末を説明した所、少々険しい顔をした彼女が上記の言葉を言い放ったのである。



「もう、分からないんですか!?風邪なんかじゃないですし、太刀川くんが原因でも何でもありません!」


「いや、しかし…」


「しかしもかかしもありません!よくよく思い返して下さい。朔はどんな顔色でしたか?」


「いつになく赤かったな」


「じゃあどんな口調で話していましたか!」


「…らしくなくどもっていた」


「女の子がそんな様子で熱でも悩み事でも無い場合。…もう分かりますよね」



問い掛けが始まった当初忍田は不思議そうにしていたが、徐々にその色を無くしていく。代わりにその瞳に浮かんできたのは驚愕の二文字だった。
まさか、と言いたげに顔を上げる上司に、沢村はため息をつきながら微笑む。その表情は呆れを含みながら、どこか清々しいものだった。



「本部長、まさか自分の気持ちすら気付いてないなんて事はないですよね。
…良いんですか?他の人に取られても」


「…有り難う、沢村くん。

行ってくるよ」


「コーヒー。…入れて、お待ちしてますね」



シュッと音を立てて扉が閉まる音を聞いてから、沢村は息をついてソファに腰掛ける。
コーヒーメーカーがコポコポと鳴るのを耳にしながら、彼女は天を仰いだ。当然、室内なので空は見えよう筈もない。側に人が居たとして、聞こえるか聞こえないかの大きさで彼女は小さく呟いた。



「あーあ。
…失恋、しちゃったなぁ」



漏らした声は、内容の割には全く残念そうな響きを持たない。口元には笑みすら浮かんでおり、寧ろ楽しそうな雰囲気を感じさせた。

沢村にとって、二人が両想いなんてことは大分前から明らかになっていた事実だった。
知らぬは当人ばかりで、しかも片方は筋金入りの鈍感。自分が惚れた男はといえば、後込みして中々進まないどころか何のアクションも起こさないではないか。諦める諦めないの問題以前に、二人の焦れったさにやきもきする羽目になるとは、彼女自身全く予想していなかった。
しかし、これで晴れてきっぱりと淡い片思いと決別できる。いっそ清々するわ、とまで思っている彼女は、腰を上げて茶菓子の準備を始めた。

甘さ控えめのほろ苦い焼き菓子は、二人が好むもの。忍田はブラックを好むが、コーヒーに関しては甘いものを好みとする朔の為にミルクと砂糖を用意する。

―部屋に入ってくると同時に、おめでとうって言ってやろう。

そんな事を企む彼女の心は、いつになく踊っているのだった。
























窮屈に思えてきた首元を緩めながら、彼は辺りを見回す。

一度トリオン体になって確認したマップでは、このフロアに留まっていたはず…。そうやってくまなく全体を回っていると、彼の目は一部窪んでいる壁へと向いた。そこは新たに自動販売機を置く予定になっている一角で、人一人が居ても見えなくなるくらいにはスペースがあった。
そこから覗く自分よりも遥かに小さな靴を見て、顔を緩める。近づいてみれば聞こえてくる嗚咽に目を細めながら、彼はその窪みの横にしゃがんだ。



「…沢村くんに言われたんだ。追いかけてこい、とね」



返事は、無い。
それでも彼はやさしい声で続けた。



「君が涙する理由は私には分からない。さっき君が逃げ出した理由だって私には分からなかった」



腕に埋めていた顔を、彼女がおもむろに上げる。白磁のように滑らかな頬を雫がほろほろと伝っていくのを、彼は労るように触れて拭った。



「…夢を、」


「、ああ」


「夢を見たんです。余りにも、身の程知らずな」


「どんな夢なんだ」


すん、と彼女が鼻をすする。その頭は赤くなっており、目元も何度か擦ったようだった。



「あなたに…忍田さんに、愛される夢です」


「そうか」


「ごめんなさい、私、どうしたらいいか…っ」



なおも流れ続ける雫は、ぽつぽつと彼女の服に染みを残していった。苦しそうに歪められた顔を見た彼は、ふっと目を細めて笑う。それを目にした彼女は、はっとその瞳を見開いた。



「何も気にすることはないよ、朔。

…夢ではなく現実にすれば良いのだから」



―彼女は、その笑い方を知っていた。

























夢も現も貴方と結ばれる












* * * * * * * * *



そして 始まる 元祖セコムと現セコムの 闘い (ゴングの音)



蘭様リクエストありがとうございました!夢、という単語がありましたのでここぞとばかりに使わせていただきました〜。

忍田さんは書いていて非常に楽しいお方です。そして私が書き終えたものをみるとそこはかとなく天然臭がする。なにゆえ。





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