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二次創作/夢
計略の弾丸(修♀成り代わりでB級逆ハー東落ち/匿名)







「もういい加減にして下さい!!!私、わたし…っもう限界です!!!!!!」



切実な声を張り上げた少女…三雲朔は、瞳にうっすらと涙を浮かべながら周りを囲む先輩達を睨み付けた。
精一杯きつい目つきをしているのだろうが、リンチさながら取り囲む彼らには大した威嚇にもならない。むしろ怯えるハムスターをいつ捕食してやろうか、というぎらついた視線をぶつけるばかりである。



「あっれ、いいのかな〜先輩にそんな口きいちゃって?」


「そう、ですけど!皆さん分かってやってますよね!?」



犬飼がにやついた顔を隠さないまま軽い脅しの言葉を掛けると、朔はびくりと肩を揺らしながらも懸命に噛みついてくる。
えー分かんないなあー。ねえ辻ちゃん?そうですね。
意地の悪いやり取りをする先輩二人を、彼女は信じられないものを見るかのように凝視した。何故ならその内の一人が自分と似たものを苦手とするからである。



「辻先輩まで分からないはずが無いじゃないですか!先輩だって女子に囲まれたら気絶くらいしますよね!?そうだと言って下さい!!!」


「俺は三雲になら囲まれたい」


「私は一人しか居ません!!!!!!」



突っ込む所そこかよ、という影浦の嘲笑は必死に声を荒げる彼女には届かない。しかし、彼の視線は多少の羨ましさを含んで辻へと向かっていた。気にかけている後輩に迫られるという滅多に無いシチュエーションを体験する男が目の前にいるからであろう。実際、辻は無表情ながらも愉しげな雰囲気を醸し出している。ライバル達の前で想い人が己だけに意識を向けている事への優越感がそこにはあった。



「おかしいです!!私、男の人苦手だって、言ってるじゃないですかぁ…」


「ああ、知ってるぞ」


「じゃあなんで皆さん追い詰めるように迫って来るんですか!カバディみたいにじりじりこないでくだふぁい!!」


「噛んだな、三雲」


「ああ、噛んだな」



穂刈と荒船が真面目な顔で噛んだ事を指摘すると、途端に朔の表情は羞恥に染まる。



「気にすることはないぞ、荒船だってよく噛むし犬が怖い」


「オイこら鋼、てめえ」



慰めるように村上が声を掛けるも、それは彼女の心に全く響かない。彼女からしてみれば、今この場で自分を囲んで立っている人たちは皆同罪なのだ。誰が何を言ってこようが、結局は彼ら全員同じ穴の狢であることには変わりないのである。ちらりと見回してみれば妙な威圧感を放つ二宮が、あきれたような顔をしつつもちゃっかり輪に加わっている諏訪が、また仏のように微笑みながら佇む堤までもが、己を囲む集団の中に居るのだ。朔に信じられる人はもはや同じ支部の仲間達だけだった。

―もう無理だ、出来る限りの抵抗はしたけどもう本当に無理だ倒れちゃう。

がくがく震えながらそう思った彼女はすぅと息を吸い込み、出しうる最大限の声で叫んだ。



「空閑ーーー!!千佳あーーー!!迅さぁああああん!!助けてくださあああい!!!!!!」


「呼んだか朔」


「ここら辺破壊した方がいいかな?」


「実力派エリートが呼ばれた気がしたから来てみたよ」


「えっ速い…でもありがとうございます……………」



声を上げてからカンマ数秒と経たない内に現れた彼ら三人は、自他共に認める三雲セコムの面々である。心優しい性格と容姿の良さから絡まれやすい彼女を守るのは、いつも彼らの役目なのだ。今回のように朔が叫ぶケースは珍しいが、それだけ急を要する事態だった事は千佳にすがりつくように抱きつく姿からして間違いない。震える小動物を背中に庇いながら下心満載の男達を睨み付ける遊真と迅の目は、人を殺すことも厭わないような光でぎらついていた。



「懲りないねアンタらも…こっちも暇じゃないんだから付きまとわないでくれる?ウチの朔に」


「そうそう。ここはひとつ君たちが引き下がってくれれば一件落着なんだけど…まあ金輪際ウチのメガネちゃんに近づかないでほしいかな」



妙にウチの、という部分を強調して喋る二人のセコムを前に、朔を取り囲んでいた彼らも挑発的な顔をする。ボーダーという戦闘に重きを置く組織に所属する者が、好戦的でない筈がないのだ。むしろ、越える壁が高ければ高いほど燃え上がる性質である。大人しく言うことを聞く訳がなかった。



「何故お前達に三雲に関することで糾弾されなければいけないのか…理解に苦しむな」


「男が苦手っつったらお前等も当てはまんだろ。何意味わかんねーこと言ってやがる」



B級一位部隊と二位部隊の隊長がそう言うや否や、遊真と迅の表情が更に黒いものに変わる。彼らの背後で朔を慰めていた千佳もまた、険しい色を瞳に宿していた。
両陣営が一歩も譲らないまま睨み合いが続く。セコムが来たことで朔の心臓は破裂を免れたが、挑発しあう彼らの対立は時間が経てば経つほど深まるばかりである。結局、彼女が叫ぶ前よりも事態は悪化の一途をたどっていた。


…とそこへ、およそこの場の雰囲気に似合わない明るい声が響きわたる。


<はいはーい皆さんこんにちは!海老名隊オペレーターの武富櫻子です!今日も元気に三雲隊員の奪い合いかな?近付きたいけど近付けない…セコムこのやろう!!
そーんなお悩みをお持ちの貴方!!朗報です!!!

本日ここに、広報公認!ボーダー内三雲隊員争奪戦を開始しまーーす!!!!!

優勝商品は勿論!!三雲隊員との1日デート権利だよ!!しかも広報による三雲隊員のプロデュース込み!!とびっきりおめかしした彼女とお出掛けしたい貴方!!奮ってご参加くださーーい!!!!>


余りにも底抜けに楽しそうな響きで宣言されたそれは、朔を絶望の底に突き落とした。もし争奪戦で親しくも何ともない人が優勝しても、そのデートに行かねばならないのだ。ボーダーに所属している彼女は、広報公認である以上逃げ出すことは出来ないのである。特に知らない男の人と1日も共に過ごすなんて、彼女にとって苦行以外の何物でもなかった。

どう足掻いても変えられそうにない最悪の未来を想像して、朔は力無く自分が出来うる限りの悪態をついた。



「テレビ通販みたいな言い方やめて下さい……」



うなだれる朔の横ではセコムが殺気立ち、そんなセコムの前では彼女を囲んでいた面々がやる気に満ち溢れた表情で準備運動を始める。






―斯くして、ボーダー全体を大きく巻き込んだ三雲朔争奪戦が始まりを告げたのだった。








































そもそも、何故広報が"三雲隊員争奪戦"とやらを始めようと思ったのか。それは、C級隊員の訓練時間の減少と関係していた。

朔が本部に足を踏み入れると、彼女が望む望まないに関わらず誰かしらに絡まれるのは常のことである。彼らの中には彼女の男性への苦手意識を払拭しようという心優しい人は殆ど居らず、「ガンガン行こうぜ!!」を選択してくる者が大半であった。シューターだろうがスナイパーだろうが、恋に関してはアタッカータイプということらしい。いい迷惑である。
そんなこんなで、彼女に絡む人数は訓練室に辿り着く頃には当初の数倍に膨れ上がる。しかもその集団が皆強者揃いなのだから、C級隊員(特に入り立て)が萎縮するのも当然である。君子危うきに近寄らずという言葉があるが、彼らは自然と朔が訪れる時間帯は訓練室に行かなくなった。危地に飛び込むような真似はしたくないと思ったのだろう。彼らの判断は正しかった。

ただ、それで困るのはボーダーである。大規模侵攻の際に動員できる戦力を更に増やしたい指導部としては、これは由々しき問題であった。C級隊員の訓練時間が減少すれば、いくら優れた戦闘能力を有していようともその力を磨き上げるのに時間がかかってしまう。
そこまで真剣に考えた彼らは、一連の懸案の原因の少女・三雲朔に全てを押し付けることにした。ボーダー全体と一個人の不利益を考えてのことである。

上層部の会議で上がったその解決策に、忍田は思わず真顔になった。現代の若者風に言うなら、「え?馬鹿じゃね?」という顔だ。彼の感じた通り、少々どころかかなりアホらしい過程を通して朔は犠牲という名の生贄に捧げられたのである。







































<さあ〜始まりました三雲隊員争奪戦!放送席には私武富櫻子、そして今回優勝商品となった三雲隊員が来ています!!>


「ふふ…空閑と迅さんを全力応援したい……」


<おーっと今の言葉で空閑隊員と迅隊員に視線が集まったぁ!お二人の声を聞いてみましょう!>


「まかせとけ朔、俺たちはお前を守るのが任務だからな。小南センパイにも頼まれたぞ」


「京介もめっちゃ釘刺してきたしな。まあメガネちゃん、悪い未来は見えないから安心してよ」


<おおっ、なんとも素晴らしい余裕っぷり!他の隊員による鋭い視線を物ともしない!

さて場が盛り上がった所で、対戦形式について御説明しましょう!!
ルールは簡単!この争奪戦は出場者全員によるバトルロワイヤルなので、最後の一人になった人が優勝という事になります。勿論作戦として誰かと協力するのもあり!

これはどういった展開になるのか楽しみです!!!>


「楽しまないで下さい…」



濁った瞳でモニターを見つめる朔の表情は、有り体に言ってしまえば死んでいる。横に座る武富との温度差は広がるばかりであった。


<さあそれでは!ステージへ転送しましょう!!

ステージは―…市街地A!天候は大雨!すごい強風です!超高層ビル群の建ち並ぶ中、どんな戦いが繰り広げられるのか!?

今ここに争奪戦スターートッ!!!!!>


開始の合図が鳴り響くと、参加者は皆一斉に駆け出す。
迅は遊真と、荒船は穂刈と、犬飼は辻と、諏訪は堤と合流を目指して複雑に入り組んだビルの合間を走っていった。影浦と村上は同じ隊の者が居ないためソロだが、二宮のみ隊員がいるにも拘わらず悠々と歩いている。


<さて、では解説の風間隊員。今この状況を見てどう思いますか?>


「ああ、堅実な奴らが多いな。連携がとりやすい同じ隊の者と一度組もうとしている。だが、その合流を邪魔しようとしているのがソロの三人だ」


「えっ風間さん何をしてらっしゃるんですか」



まさか風間が解説席に居るとは露ほども思わなかった朔は驚きの声を上げる。そんな彼女をちらりと横目で見てから、風間は言葉を続けた。



「影浦と村上は確実にあの玉狛二人を狙ってるだろう。おそらく優勝にかける執念が最も強い奴らだからな、あれを撃ち取れたら他をやるのは容易い。二宮はバックワームを使って人目に付かないよう高い場所に移動していると見た」


<なるほど!では最初にぶつかるのは玉狛勢とソロ二人か……おっと!
これは、荒船隊員か!?なんと走りながらスナイプをこなした!堤隊員が左腕を撃たれました!!!その隙に荒船隊員が穂刈隊員と合流ー!!!>


なんとも大胆な手を使って穂刈と合流した荒船は、愉しげに口を歪める。諏訪が堤と合流した時には、その姿は見えなくなっていた。



「チッ、荒船のやろう…!!おい堤、バックワーム使え!一旦隠れるぞ!」


<荒船隊員もバックワームを使用、これで完全にスナイパー組は行方が分からなくなりました!諏訪隊員と堤隊員も隠れようとしましたが、なんと!ソロ二人に追われていた玉狛勢がここへ到着!驚異的なスピードです!!>


「その後ろからも来ている。諏訪隊と玉狛、ソロ二人の混戦になりそうだな」


風間がそう言って間もなく、激しい衝突音が辺りに響く。六人が顔を合わせたビル群のほぼ真ん中で、激しい戦闘が繰り広げられる事となった。













<さあ大混戦となってまいりました!

現在残っているのはその凶弾で多数撃ち取った二宮隊員、サイドエフェクトを駆使して切り抜けてきた影浦隊員、身軽な動きで相手を翻弄する空閑隊員!!これは一体どうなるのでしょうか!?>


「迅がやられたのは意外だったな。何を考えてるんだ、あいつは…」



己の味方が空閑しか残っていない今、朔はただひたすらに彼の勝利を祈るばかりである。
しかし、見るからに彼は満身創痍だ。迅が居なくなってから、彼は周囲の連携攻撃を一身に受けている。トリオン切れでベイルアウトになってもおかしくなかった。


<影浦隊員が空閑隊員に仕掛けた!!激しい切り結びです!!そして二宮隊員の姿がいつの間にか消えている!?バックワームを使用しているためレーダーには映りません!!
あーっとそう言っている内に大量の光の粒!アステロイドだーーっ!!!!!


空閑隊員と影浦隊員、共にダウン!!勝者は…ってあれ!?>


優勝者が決まったかと思った武富の実況は熱が籠もる。しかし、その声は最後まで続くことなく途切れた。


「これは…ずっと隠れていたか」


風間がそう呟くと同時に、二宮の丁度左胸からトリオンが黒く吹き出る。それは、彼が負けたことを意味していた。


「ぐっ…!!」


<な、な、なーーんと!!二宮隊員ダウン!!!どういうことだ!?一体誰が…!!>


「あれを見ろ。あそこだ」


武富が戸惑いの声を上げていると、レーダーに新しく反応が現れる。そこは市街地の中で最も高いビルの屋上を指し示しており、誰かが居る事を明確にしていた。

場面が切り替わり、パッとその人物を映し出す。其処にいたのは―…



「や。
これは俺が優勝ってことでOKかな?」



―ひらひらと手を振る東春秋、その人であった。



「一番いい位置で勝機を伺っていたみたいだな。流石だ…迅もこれが最善だと思ったから引いたんだろう」


<我々にも気付かれることなく潜み続けていた東隊員が!なんと一発のみで優勝を手にしました!!!なんという人でしょう!!!!!>


突如現れた一人のスナイパーによって、争いは終結した。

あまり東とは関わった事のない朔としては、何故彼が?という感情でいっぱいである。すると、モニターの向こうから彼女に声が掛けられた。



「三雲とのデート権利ってあっただろ、確か。それ無しで良いよ」



えっ、と驚きに満ちた声を漏らした朔が見えていないはずなのに、東はそれが見えているかのように言葉を紡ぐ。



「大体男が苦手だって言っている女の子に強引に迫るなんて子供のすることだしね。無理はさせたくないから」


「あ、東さん……!!!」



じゃあそういう事で、と言った東に、朔はキラキラした眼差しを注いだ。絶望に満ちた地獄から天国へと連れてきてもらったような気分である。彼女は生まれて初めてのときめきに胸を高鳴らせた。








































こうして、三雲隊員争奪戦は東による完全勝利にて幕を閉じた。

たった一発の攻撃で勝利も朔の信頼も勝ち取った彼は、後々プライベートで二人で出掛ける仲にまで発展する。果たして何処までが計算だったのか、それを知る者は彼自身だけであった。









ちなみに、C級隊員の訓練時間の減少に関してはC級隊員専用の訓練室を設定したことでほぼ解決したらしい。
それを聞きつけた朔と玉狛勢が鬼気迫る表情で上層部に突撃を仕掛けたのは余談である。












































計略の弾丸

















* * * * * * * * * *



やばいクソ長くなった…こんなに長くするつもり無かったのに………。でも書いてて楽しかったです。疲れたけどな(ゲンドウポーズ)


さてさて、いかがでしたでしょうか?こんなの逆ハーじゃない!オチが甘い!とお思いの場合は即座にご報告下さい。余裕がある時に書き直したいと思います。


ちなみに、今作の玉狛セコムは"主人公の自然な恋応援し隊"でもあります。しかし条件に合う人しか許しません。
強引とか以ての外。おびえさせる奴なんて論外。焦らずゆっくりと主人公のペースに付き合ってくれる人しか駄目だ…!!

→適合者:一人該当する者あり






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あきゅろす。
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